一日一本映画レビュー 『チワワちゃん』

『チワワちゃん』

 

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原題:チワワちゃん

公開:2018

監督:二宮健

出演:門脇麦 成田凌 筧一郎 玉城ティナ 吉田志織 他

 

盗んだ600万円で走り出す

 

以下感想。

 【日本にはびこるあの形容詞】

ビビッドな色遣いと、目まぐるしいカット、目を引くファッションと、グルーヴィな音楽の融合。そこにちょっぴりのエロを足せば、あら不思議「エモい」の出来上がり。

「エモい」っていう言葉は「ナウい」みたいなもんで、その言葉そのものがすでにエモくない。まさしくサブカル受けを狙った奇抜系青春映画のにおいがきつくて、気にはなっていたけどいまいち手が出なかった映画。

 

というのも、割と門脇麦が苦手で、いまいち彼女が出てる作品はジトっとした空気感を感じてしまう。彼女自身は魅力的で演技のうまい女性俳優やと思うんやけど、門脇麦が出ているだけで観るのをためらってしまう。

さらに、フリーセックスをあたかも人間の美学のように描く作品も、コンプレックス丸出しの西洋かぶれ作品と感じてしまい、どうも敬遠してしまう。

 

とまあ開幕から文句を垂れたんやけど、いざ蓋を開けてみれば、なかなかどうして興味深くて、新進気鋭の若手俳優たちが魅力的に輝いた、刹那的な作品に仕上がっていた。

 

門脇麦演じる主人公の女の子は、確か看護学生かなんかで、ナンパきっかけで知り合った男女グループで、行きつけのバーをたまり場としている。

そんな時、「初めまして。チワワちゃんでーす」と、奇抜で天真爛漫な女の子が彼らの前に現れるという話。

といっても、そのチワワちゃんは開幕早々バラバラ死体となって東京湾に沈められてしまう。そのニュースを門脇麦が目にしたことで、チワワちゃんとの日々を想起するというのが、本作の構成。

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「お前だけ、なんか違う」とかいうダサすぎる口説き文句も、彼女らには刺さる

チワワちゃんは、純粋で、可愛くて、個性的で、楽しいことが大好きな女の子。

彼らが楽しくテキーラショットを交わしているときに、600万円の入ったポーチを持った男たちが彼らの前に現れる。

「600万円あったら、最高の夏にできるね!!」

という言葉を皮切りに、チワワちゃんがそのポーチを強奪、逃走。

そして盗んだ600万円でひと夏の大豪遊をする。

 

【空っぽの存在証明】

チワワちゃんの死をきっかけに、門脇麦演じるミキは、チワワちゃんの本名も素性も何も知らなかったことを再認識する。

チワワちゃんの不審死に興味を持った記者とのインタビューを通じて、ミキは改めてチワワちゃんのアイデンティティを探ろうとする。

 

盗んだ600万円で豪遊、その豪遊シーンがとにかく長く、退屈。

基本的に乱交(とまではいかないけど)みたいな下品な遊びが多く、それをかなりトリッピーな演出で映し出す。

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原作は確か漫画で、発表が94年。

90年代初頭の喧騒の中での若者文化を反映した作品と考えれば、合点がいく。

けど、あくまで本作は2010年代の日本が舞台であり、原作にはない要素(原作は読んだことないけど、当時はSNSは無かった)であるインスタグラムの存在を押し出した演出等々は、単純にダサい。

本作における登場人物の若者たちは、盗んだ600万円で、それはそれは楽しそうに、生命の充実を謳歌している。この描写は、人によっては「これこそが生きるということだ!」とか、「規則や学歴に縛られるよりも、若さを開放する彼らこそ人間らしく素晴らしい」とか感じる部分かもしれない。

実際に、俺は、この映画は、そのようなメッセージを押し出した映画のように感じた。

けど、本質的には、彼らは何の努力も、何の痛みも伴っていない。

彼らにとってのアイデンティティ、ひと夏の大豪遊は、人から盗んだ600万円であり、そして、それを盗んだのはチワワちゃんに他ならない。そこに生命の充実や青春の謳歌を引き合いに出しても、努力もなしに得られる充実など、何の意味もないのではないか、と感じてしまう。

 

実際に、その感覚は主人公のミキも抱えている(ように思えた)。

彼女はインスタグラムで友人のカメラマンに撮ってもらった写真を上げ、密かな人気を得ることで、自信を承認している。

もちろんそれはささやかで魅力的なことであるけど、後乗りしてきたチワワちゃんがインスタグラムを開設し、写真を投稿したところ、見る見るうちに人気が爆発、あっというまに一躍時の人となり、モデルとして大活躍することとなる。

 

奇抜で人を惹きつけるチワワちゃんの存在に、どこかジェラシーを抱え、同時にどこか憧れを抱いていたミキが、チワワちゃんの死をきっかけに彼女のアイデンティティを探るにつれ、彼女の空虚な人間性が明らかになり、そこから、彼女の本当の顔が見えてくるようになる。

 

非日常の輝きを求めると日常の安らぎが失われ、日常に安住すると非日常の刺激は得られない。そんなジレンマの中、彼女自身が自身のアイデンティティと向き合っていく。

きっと、若者たちはみんな「盗んだ600万円」の意味の無さに気付いていて、それに依存しながらも、「普通」から逸脱したいばっかりにそれを見て見ぬふりをして、何とか酒を飲んだりタバコを吸ったりセックスをしたりして慰めているのかもしれない。

インスタ映えという曖昧な輪郭の言葉ではなく、自身の内面と外面、その両方に目を向けられるのが大人になるということなのかもしれないけど、時に純粋すぎると、「チワワちゃん」のような悲劇と対峙することとなってしまう。

 

大人になんてなりたくない!と思うんのだけれど、そもそもなろうとしてもなかなかなれない。

自動的に大人になれればいいのに、勝手にあきらめることが出来たらいいのに。

自己承認と卑下の中間地点、モラトリアムの中の揺蕩いを感じることが出来るのが、こういった類の映画の魅力やと思う。

 

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と、たくさん深読みをしては観たけど、この映画は、正直残酷な現実と若者のリアリティを結び付けられるほど、強烈なエネルギーを持った映画とは俺は思えなかった。

 

やっぱり、結局のところは「若さの賛美」な気がして、あんまり奥行きのあるエネルギーを感じなかったな。おしゃれな映像とカットの連続で、意味ありげな芸術性を高めているようには見えるんやけど、本質的に観客として突き刺さるところは薄い。

独特の映像表現や個性を感じられるため、魅力値は高いし退屈しない映画ではあるんやけど、奇をてらったら奥深い映画になるわけではないと思う。

「美女がタバコ吸ってたらエモいよね」

「美女同士でキスさせたらエモいよね」

くらいの不順さ、意味の無さを感じるシーンがあって、正直ダサかった。

 

もちろん感じ方は人それぞれで、この映画が突き刺さる人もいるとは思う。

個人的には、「おしゃれで意味ありげなミュージックビデオ」ぐらいの感覚が強くて、それは映画ではなくてミュージックビデオやんと思うから、映像体験としては感動が薄かったかも。

 

描いているテーマや観客が対峙する感情の起伏は、大変素晴らしいものがある。

言語化できない魅力を、確かな映画のパワーとして観客にぶつけるには、あまりにも二宮健監督は器用すぎるのではないだろうか。

別に意味なんて分からなくてもいいじゃん

それはそう。本当にそうやねんけど、あくまで、「俺は」、この映画にすごく引き込まれた瞬間があったから。だからこそ、もっと深いもの、ただのおしゃれ映画にとどまらないすさまじさを期待してしまい、肩透かしを食らったのね。

 

文句は言ったけど、先述のように魅力は確かにある映画やから、短いし是非見てほしい。

 

エンタメ:☆☆☆☆★

テーマ :☆☆☆★★

バランス:☆☆☆★★

好き  :☆☆★★★

計 13/20