2019年日本映画ランキング
こないだ、映画館へ行った。観た映画は『罪の声』。
小栗旬と星野源のコンビが織りなすサスペンスで、エンタメ性とメッセージ性の両方において面白く、けっこう楽しめた。
確かにこの映画は面白かった。しかし、まあここ最近、面白そうな日本の映画がやってない。『スパイの妻』や『ミッドナイトスワン』といった、面白そうやけど見逃してしまった作品こそあれど、予告編や映画においてあるチラシを見ても、心が惹かれるものが無い。
上映前の予告ってすごく好きで、ワクワクするし、次に何見るかな、と考えるのが好き。今回の予告に流れたのは菅田将暉と有村架純の50番煎じくらいのエモい系恋愛映画と、コスプレ上等の『約束のネバーランド』の実写化、くだらないネット都市伝説を取り扱ったホラー映画、苦笑いしかできない福田雄一監督作品など。海外から『TENET』なんかが輸入され、今後は『ブラックウィドウ』に『キングスマン』、『ノータイムトゥダイ』などの派手な映画が入ってくる。そんな中で日本の映画のラインナップがこれじゃあ、より一層邦画を映画館で観ようと思う人は少なくなるんじゃないか?
なまじ『キングダム』が実写化に成功したせいで、「バトル系漫画・少年漫画の実写化はイケる」という空気感が再燃してしまうのではないか?予告を見た限りやと、『約束』の実写はめちゃ酷そうやけど。流行りの少年漫画がガンガン実写化される悪しき潮流が再びやってきてしまいそう。(転生スライムとかチェンソー、スパイファミリーあたりありそう)
興行的なヒットはもちろんやけど、そのうえ『キングダム』の成功を裏付けてしまったのが、2019年日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞したという事実。(日本は、ノミネートされた時点で優秀作品賞が与えられる。そこから最優秀作品賞を選出する流れ。本家には優秀作品賞はない)さらにこの2019年の日本アカデミー賞が酷いのは、俺の大嫌いな「埼玉のアレ」も受賞してたこと。実写化が問題なのではないけど、映画作品と漫画作品はしっかり棲み分けすべきやと思う。
『キングダム』は確かに面白かった。脚本の面白さはもちろん、アクション俳優を起用したりなどエンタメとして力を込めたのが伝わってきた。『キングダム』ファンもそうでない人も楽しめる出来やったと思う。さらに、アカデミー賞なんてのは、もちろんその年の優秀な映画作品、芸術作品をたたえるという意味合いはあるが、結局のところ映画業界の年に一度のお祭りなわけで。特に日本アカデミー賞は映画業界の宣伝のための派手なイベントに過ぎない。
なので、そこにノミネートされる作品が大衆向けだったり、バトル漫画の実写化であろうと問題はないわけなんやけど、2019年のノミネート作品ラインナップをのちに見返せば、どう考えたって、「2019年は日本映画不作の年なんやなあ」と思われるに違いない。
改めてそのノミネート作品を見ると、
・翔んで埼玉
・閉鎖病棟
・キングダム
・新聞記者 ☆最優秀作品賞受賞
というラインナップ。政権の不祥事をタイムリーに扱った、大手ではない作品の『新聞記者』が受賞したことは、時代を反映し芸術をもって権力に訴えかけるという映画の役割の一つを果たしたといえる。
けれども、いくらなんでも、キングダムと埼玉はどうなの?この作品がノミネートされることで、人は「キングダムと埼玉ってノミネートされるくらいすげえ映画だったんだ!」と思うだろうか?「こんな映画しかノミネートできないくらい酷かったんやな」と思う人が多いのではないか?少なくとも、俺はそう思った。
この作品がノミネートされるというのが問題なのは、他の作品が不憫でならない。ヒットした映画がノミネートしないと盛り上がらんやろうから、仕方ない部分はあれど、このままじゃ映画芸術に本気な韓国との差は開くばかりではないのか?日本の映画も世界で戦えるのに、それを日本国民は知らず、日本の映画はクソ!という価値観のみが蔓延する。そんなのはあまりにもったいない!とにかく、日本人は面白い日本の映画がたくさんあることを知らずに、日本映画の質の低さを嘆いているきらいがある。もっと知るべきやと思う。
ということで、個人的に面白かった2019年の日本映画の作品を紹介する。興味を持ってもらえたら、ぜひ自分の目で鑑賞してその真価を確かめて判断してくれたらうれしい。
第10位 『蜜蜂と遠雷』
監督:石川慶
出演:松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン 斉藤由貴 鈴鹿央士 他
才能の世界を狂気的なまでに映し出す作品。芸術的で美しい映像を用いて、ピアニストたちの精神世界を描いているのが興味深かった。各人のドラマを過度に掘り下げず、あくまで音楽を軸として、才能の世界の孤独や葛藤を、コンクールという軸でクールに描き切っているのが良かった。
エンドロールにて、(新人)というカッコ書きまで丁寧に用意されていた鈴鹿央士の演技が印象深い。すこし終盤にかけてミュージックビデオみたいな質感に偏ったのが残念やけど、思わず涙があふれるようなエネルギーと、音楽の楽しさを活かした見事なエンタメ性があった。
第9位 『町田くんの世界』
監督:石井裕也
究極の不器用男、町田くんが織りなす、愛に溢れた青春の描写が心地いい。「殴られたならもう片一方の頬を差し出す」ような、キリストを想起させるような愛と思いやりに満ちた町田くんが、挫折を味わい、優しさと愛の本質を掴む展開が興味深く、リアルな手触りがある。
しかし、本作の一番の魅力はヒロインを演じた関水渚に他ならない。圧倒的なキュートさと、等身大の空気感。ヒロインとして限界値まで魅力的な質感とキャラクター、それを実現する端正なルックスと演技が素晴らしい。
荒唐無稽なオチというか、正直後半はダレるけど、関水渚で十分おつりがくる。
第8位 『メランコリック』
監督:田中征爾
出演:皆川暢二 磯崎義知 他
うだつの上がらない男ナベオカの退屈な日常が、スリリングな非日常に突然変わってしまう不条理ドラマ。妙にリアリティのある展開と、まったくもってリアリティのない展開の連続、そのアンバランスさがジェットコースター的な楽しさを生んでいる映画。
クオリティ以上の魅力があり、楽しさがある。小気味よいテンポのもと進むナンセンスなドラマが、あたたかく普遍的なテーマを提示しながら心地よく着地する見事さ。日常のメランコリックと、その先に待ち受ける爽やかな幸せ。いびつながらも、しっかりと王道の楽しさを抱えたサスペンス・コメディ。
第7位 『ウィーアーリトルゾンビーズ』
監督:長久允
出演:二宮慶多 水野哲志 中島セナ 奥村門土 他
平成30年間のカルチャーをこれでもかと詰め込んだ意欲作。監督の「やりたい!」「好き!」がこれでもかというほどに詰まっている作品。
子供が冷めた目で社会を見て、斜に構える幼さを割と俯瞰で観ているうちに、いつのまにか世界観にトリップ出来る感覚がたまらなく楽しい。意味不明と共感を繰り返していくうちに、病みつきになる。王道のエンタメとサブカルチャー的な映像の連続が頭に強烈に残る映画。めちゃくちゃ楽しい映画だが、個人的にはもう少し振り切ってほしかった気もする。
すごく幼いというか青臭い力に満ちた映画やとは思うんやけど、すごく心に刺さるシーンやセリフがあった。
第6位 『半世界』
監督:阪本順治
映画が持つ空気感、流れる時間の丹念なリアリティ。キャラクター一人一人のさりげない描写が丁寧。人間の無常を悲哀のある人間ドラマで紡ぐ構成と、「冬」の冷たさは、大好きな映画の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』と共通していて大好きになれた。
映画のテーマを理解しきるにはまだ若いし、審美眼も追いついていないけど、キャラクターを描くさりげないシーン一つ一つが魅力的で、それだけで大いに観る価値がある。とはいえ、最終的な映画の着地、メッセージは、むしろ俺くらいの若い人間に向けたものなのでは?とも感じた。
第5位 『よこがお』
監督:深田晃司
映画にちりばめられ、頭にこびりつく違和感。映画が持つリアリティが、その不穏感を増大させていく。一人の女の、ささやかな、それでいて恐ろしい復讐劇。
ある事件をキッカケに、理不尽に崩落していく女の人生が残酷で、つらい。目をそむけたくなるが、先が気になる、そんな映画の構造そのものが、戻ることも進むこともできなくなってしまった主人公とリンクするのが恐ろしい。あまりに現実的で、手触りを感じるがゆえにゾクゾクする。
筒井真理子と市川実日子の怪演と呼ぶにふさわしい演技合戦が見もの。どこまでも落ちていく危うさを常に漂わせながら、ドラマをたゆたう女たちの、心を確実に蝕む日常サスペンス。
第4位 『アルキメデスの大戦』
監督:山崎貴
出演:菅田将暉 柄本佑 舘ひろし 田中泯 橋爪功 国村隼 他
数学を用いて、戦艦大和の建設を止めようとした男のドラマ。戦艦大和が建設されれば、日本が戦力を持ったと勘違いしてしまい、アメリカに戦争を仕掛けるに違いない。戦争を止めるには、大和の建設は非現実的であることを、数学的に証明せねばならない。
菅田将暉と柄本佑のバディムービーは、少々の安っぽさこそ目に付くものの、エンタメ映画として申し分ない。彼らの戦いの中で、戦争に数学で立ち向かうということの興味深さをヒシヒシと感じることが出来る。
大和の建設を止めるための映画ながら、それが「失敗する=大和は作られる」ということは歴史が証明している。今作といえば、なんと「大和がアメリカ軍によって沈没させられるシーン」から始まる。つまり、「なぜ主人公の戦いは失敗してしまったのか?」の答え合わせが映画にとって最も大事な部分だけども、この映画はそれを「正義」という曖昧で難解な概念と観客を向き合わせるかたちで見事に提示して見せた。
俳優たちの名演が光る、切なく輝く名作。
第3位 『凪待ち』
監督:白石和彌
人間の脆さを容赦なく描いた作品。ろくでなしでクズな男を香取慎吾が名演。
残酷な事件と、逃げられない泥沼のような過酷な現実を丁寧に描く。目をそむけたくなるほどの自己破壊と堕落の連続が観ていて苦しい。人間が自身の本質に抗えないむなしさ、人を傷つけても学べないやるせなさが冷たく心に刺さってくる。
それでも生きていかなければならない、という非情な事実を提示するとともに、それでも生きていける、という力強く温かなメッセージの両方を感じることが出来る丁寧な脚本が見事。サスペンスとしては観ない方がいい。
長く長く凪の訪れを待つ価値は十分にある作品。最終盤にかけては涙があふれた。
第2位 『愛がなんだ』
監督:今泉力哉
共感と反感の両方を絶妙なバランスで抱え込んだ、見事にめんどくさい奴らのどうでもいい恋模様を描いた作品。しかし、どうしても刺さらずにはいられない、目を背けられないリアリティがすさまじい。
理解不能の他人を愛するということの難しさ、バラバラの登場人物たちの価値観をかき集めたら一つの愛の本質が見えてくるような絶妙なバランス感覚が恐ろしいほど面白かった。
自身の魅力のなさを自覚しながらも女をスケこます男の傲慢さ、「都合がいい」を最大の愛の形と走り切る女の痛々しさ。成田凌と岸井ゆきのの見事な憑依がすさまじい。
くだらない「恋愛あるある」程度にはとどまらない奥行きと芸術性、監督のこだわり、演者の見事な演技が最高。開幕10分、風邪を引いた男にゴテゴテの味噌煮込みうどんを作る岸井ゆきのを観た瞬間にこの映画が面白いことを確信した。
第1位 『宮本から君へ』
監督:真利子哲也
ため込んだエネルギーが濁流のように解放されていく感覚がたまらなく楽しい。悔しくて歯を食いしばいながら強敵に立ち向かう宮本の姿はアドレナリン無しには見れなかった。
全身全霊で生きること、人を守ること、その覚悟。人生に一度、絶対に負けてはならない戦いに立ち向かう宮本の姿が、いつしか自分に返ってくる。いざとなったとき、俺は戦えるやろうか?
痛いほどに跳ね返ってくるメッセージと、血がたぎる暴力の麻薬。自己の世界との葛藤に悩む男たちを、へらへらと笑いながら優しく包んでくれる宮本が最高に魅力的。
以上。
気になっていていまだに観れていない作品ももちろんある。(ひとよ、チワワちゃん、長いお別れ など)
キングダムや新聞記者も確かに面白い作品やったけど、それが10本に入らないくらい、2019の日本映画はおもろかったよ。
個人的には『アルキメデスの大戦』が一番オススメ。