一日一本映画レビュー 『コーダ あいのうた』
『コーダ あいのうた』
原題:CODA
公開:2021
監督:シアン・ヘダー
出演:エミリア・ジョーンズ フェルディア・ウォルシュ=ピーロ マーリー・マトリン トロイ・コッツァー ダニエル・デュラン 他
コロナで沈んだ世界に贈る、温かでハッピーな物語
以下感想。
【意外なアカデミー賞受賞】
本作は、2021のアカデミー最優秀作品賞を受賞した。
アカデミー最優秀作品賞は、その年で最も優れた作品である、という意味合いもあると同時に、その年を象徴する作品である、もしくはその作品に賞を与えることで映画業界が盛り上がったりいい影響を与えると考えられる作品に贈られる。
そんな映画の世界において非常に大きな意味を持つ「アカデミー最優秀作品賞」を受賞した本作。
そう聞くと、フェイトを抱えた家族が、理不尽に不幸な目に合って、社会問題を突きつけられるんだ…と身構えてしまう。
あらすじや予告編を見る限り、
家族×音楽×青春
っていう俺の三大ツボじゃない要素を抱えており、正直あんまり期待してなかった。とはいえ、映画好きを公言している以上、最優秀作品賞は流石に観ないわけにはいかないので、映画館で鑑賞した。
あらすじとしては、主人公の少女は、家族の中で自分以外がみんな聴覚障害者であり、家族の中で通訳の様な役目を果たしている。
そんな彼女は天性の歌の才能があり、学校の先生から推薦入学で音楽大学の受験を勧められる。大好きな音楽の世界に身を置きたいという気持ちと、家族の耳として支えなければ、という気持ちの板挟みの中、少女は葛藤する。
【難しいテーマと、明るくパワフルに向き合う】
本作は、聴覚障碍者と社会のかかわり方について、といったセンシティブで難しい問題を取り扱っている。そういった映画は、しばしば、粛々と、荘厳に扱われることが多い。それはそれで深みがあって興味深いけど、本作は、かなりパワフルに、ハッピーに、コミカルにアプローチしているという点で、とても快活で楽しい映画として素直に賞賛できるものやった。
伝えたいことは、全力で!心から伝える!
それは健常者だろうが聾啞者だろうがそうで、めちゃくちゃ軽い言葉でうわべのことを言うなら「言葉よりも心が大事」。
本作は、ともすれば綺麗事として片付けられてしまいそうなメッセージを、正面から堂々とエンタメとして描くことで、素直に観客の心にエネルギーを与えてくれる。
恋愛や学内イベントを絡めた爽やかなティーンムービーとして、温かでコメディチックなファミリードラマとして、音楽を軸としたサクセスストーリーとして、そして一人の少女の葛藤とアイデンティティの確立に迫るヒューマンドラマとして、ビックリするほどいいバランスで描かれていて、何処をとっても描写不足が無く、一切パンクしていない。これってすごい!
【目を引く演技力】
主役を演じたエミリア・ジョーンズは、青春期の脆い少女として、耳として家族を支えるたくましい女性として、才能に溢れた音楽家として、3つの顔を見事なまでに演じ切っていた。
家族の父、母、兄は実際に聴覚障害者なので、演技は基本的に表情とボディランゲージのみ。それでも喜怒哀楽を演じ切っていたのが凄い。
社会の中に必死で溶け込もうとする哀愁や、聾唖者ながらも必死で感情を爆発させる様など、繊細な感情を一つ一つ豊かに演じているのがとても印象的やった。
お母さんが必死で笑顔を作ろうとしているところとか、涙でそうやった。
よく、海外の俳優さんは演技の上手い下手が分からない、という人がいる。半分その通り。日本語と違って英語で演技をされても、下手か、正直わからない。
けど、下手かどうかはわかりにくくても、うまいかどうかは分かる。声の出し方、抑揚のつけ方、表情の作り方。脚本において観客の感情をある程度コントロールする俳優の演技は、そのような部分でうまさが現れるのだと思う。
本作の家族は、聾啞者のため声を出さない。なので、言葉が分からなくても演技が上手いということはわかると、実感できると思う。
【コロナ禍だからこそ明るい映画を!】
本作がアカデミー最優秀作品賞に輝いた理由は、やはり万人受けする多幸感と、確かな感動、そして、何よりコロナ禍で沈んだ世界に明るい気持ちを届けるだけのパワーがあるということが大きいと思う。
映画館で(まだ間に合うかな)ぜひ、そのエネルギーを感じ取ってほしい。
エンタメ:☆☆☆☆☆
テーマ :☆☆☆☆★
バランス:☆☆☆☆☆
好き :☆☆☆★★
計 17/20