一日一本映画レビュー『ジェントルメン』

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原題:The Gentlemen

公開:2021

監督:ガイ・リッチー

出演:マシュー・マコノヒー チャーリー・ハナム コリン・ファレル ヒュー・グラント 他

 

英国人≒京都人

 

【人気監督ガイ・リッチーの新作】

本作の監督は、ガイ・リッチー

彼の代表作である『ロック・ストック・アンド・トゥー・スモーキング・バレルズ』は、映画好きから根強い人気を誇る傑作。カジノで大負けしマフィアに大借金を作った若者が、返済のために強盗をするコメディ。複数のグループをバラバラに描き、見えないところで繋げて収束させる秀逸な脚本が魅力の作品。彼の映画はクセのある演出とよく練られた脚本、爽快感のある展開、というイメージがある。

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『ロックストック〜』の流れを汲んだ『スナッチ』も、アクの強いキャラクターをうまく動かした名画やったけど、正直、それ以降の彼の作品は、個人的にはパッとしない

 

『コードネームUNCLE』や『シャーロック・ホームズ』シリーズは、娯楽作品という印象が強く、鮮烈に頭に残るようなパンチは感じられなかった。『キングアーサー』の不発から、ディズニー映画の実写化『アラジン』で見事に興行的な大成功を収めたけど、正直もはや独特なクセのある映画を楽しめる監督というイメージは無かった

 

期待値低めで挑んだ本作『ジェントルメン』は、あらすじを読んだ時点ではとっても「ガイ・リッチー的」な風味。マフィアにギャング、金に銃、探偵にゴシップ記者。“一流の紳士(ワル)たち。”というちょいダサめなキャッチコピーに若干辟易しつつも、久しぶりにガイ・リッチー節のきいた作品が見れるような予感があった。

 

【気合の入ったオープニングアクト

主人公のマシュー・マコノヒーが、何者かに頭を撃ち抜かれ、血飛沫がビールに沈むカットからの、オープニング・ムービー。

うーん、なかなかカッコいいオープニング。

いかにも「後で伏線回収しますよ」「この部分、よく考察しといてね」と言わんばかりのカットやけど、正直カッコいいし、ワクワクする。

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気合の入ったオープニングムービーは好き。
映画っていろんなオープニングがあって「いきなり静かなカットに入って文字だけ」とか「あえて最後」とか「音楽と共に派手に」とかたくさんある。中でも凝ったムービーとともにタイトルを出すオープニングムービーが好きやなぁ。最後に“DIRECTED BY …”で監督の名前が出るのがカッコよくて好き。

 

【作中劇のようなベースで描かれるドラマ】

本作の進行は、私立探偵が大物マフィアの進退に関わる情報を高値で売りつける、というところからスタートする。そして、その“身体に関わる情報”の詳細について、ヒュー・グラント演じる私立探偵が劇風に話す、という形で展開していく。

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本作はその作風ゆえに映画全体がナレーションベースで進むので、会話劇や群像劇に慣れていないと展開を追いづらい。映画を普段あまり観ない人は、名前が沢山出てきたときに誰が誰なのかわからなくなると思う。

 

【ガイリッチーの魅力が存分に出たエンタメ】

ガイ・リッチーは今一つ不発弾が続いており(本作ではそれを自虐する(むしろ配給会社を皮肉ってる?)ようなシーンがあったりする)、それゆえに本作は「ガイリッチー復活!」のような評価を受けている。実際、本来彼の映画が持っていた魅力は発揮していたように思う。

英国人らしいブラックなユーモアが聞いており、たまらない(ブラックすぎてグロテスクな瞬間も)。主人公をアメリカ人にして、「ジェントルメン」なんていうタイトルをつけて、蓋を開けてみれば嘘つきと裏切り者、排他的な奴らにまみれている、なんていうのもなかなかエッジが聞いている。まるで京都人のような閉鎖的なプライドもいっそ心地よく、一本気に輝く主人公のマシューマコノヒー演じるミッキーのカリスマ性を際立たせるのに一役買っている。

バイオレンスの程度もよく、あくまで上品に下品なバイオレンスを描くのは、いかにも英国映画らしく、とっても快感。主人公の妻を演じたミシェル・ドッカリ―のアクションもなかなか見ごたえがあり楽しかった。

マシュー・マコノヒーの存在感のある演技に、チャーリー・ハナムの落ち着いた演技が映画を動かす。ヒュー・グラントの下品な風体も、役に対するガッツを感じた。コリン・ファレルは正直俳優の名前に対して持て余していたように思えたけど、個人的には好きな俳優。英国人俳優たちの饗宴に、こってりと君臨するアメリカ人の構図がたまらなくカッコいい。

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とはいえ、群像劇を描くにしては今一つ描写とキャラの個性不足であり、主人公を軸としたドラマとして描くのであれば今一つ焦点があっていないのでは、と感じた。映画全体を観ていてとっても楽しいし面白いんやけど、最後まで見て今一つ心に残るものがない。どちらかというとガイ・リッチーが仕掛けた風刺や皮肉、社会に対するスタンス、など、正直楽しみ方が分かりづらい(というかそんな楽しみ方はうがっている)。

監督の名前が、とか、過去の作品が、英国人は…といった予備知識のない人が、単純にエンタメ映画を求めてみたときに、どう感じるのかなあとは思った。オーシャンズイレブンみたいなスタイリッシュなクライム映画ではないので、オシャレでユーモラスなバイオレンス映画、くらいの認識で観るのが正解なのかもしれない。個人的には好きな描き方でした。

 

エンタメ:☆☆☆☆★

テーマ :☆☆☆★★

バランス:☆☆☆★★

好き  :☆☆☆☆★

計14/20

 

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