2021年日本映画ランキングベスト10発表会場
2020年、コロナの猛威が世界を襲った。
緊急事態宣言が出されたことによる外出自粛、その影響は、飲食業や観光業をはじめとした多くの業界に及んだ。映画業界も、その例外ではなかった。
外出自粛により人が来ない。
多くの映画の制作がストップし、公開が延期された。
さらに、巣ごもり需要によるサブスクリプションサービスの最盛。
映画がエンタメとして多くの人に身近なモノとなった反面、映画館は三重苦により、人を集められずガラガラに。悲しいことに、多くの映画館が閉館となってしまった。
しかし、『鬼滅の刃 無限列車編』の超絶大ヒットや、『ドライブ・マイ・カー』のアカデミー賞ノミネート等、コロナ禍でも映画業界の中で前向きな話題はあった。
映画業界が日陰業界となりつつも、それでも瀬戸際で日本の素晴らしい作品たちは戦い続けている。そして、その戦いは、ついに世界にも評価されるようになった。
まだまだ日本の映画業界は枯れていない!
いち映画ファンとして、今後も日本の映画業界に期待し続けていたい!
そこで、コロナ禍での作成・公開を余儀なくされた、2021年の日本映画の、俺が観た中でのベスト10を発表する。
コロナによって生活様式や社会の価値観が変化したことを映画を通じて感じる機会が非常に多かったというのが今年の全体な印象。とても興味深いテーマを持つ作品が多く、今年はめっちゃくちゃ日本映画が面白かった年やと思う!!
是非とも、鑑賞の参考にしてください。
第10位 『あの頃。』
監督:今泉力哉
『愛がなんだ』の今泉力哉監督作品。
いま最も人気な日本人監督の一人。ここ最近、やたら彼の作品が多い。
キャラクターの描き方がうまく、独特の空気感に観客を引き込むのが本当に上手な監督。ノスタルジーやシンパシーを絶妙な塩梅で味合わせ、しっかりオリジナリティあふれる脚本で魅せてくれる。本作も、そんな監督の上手さを感じたな。
主人公は、失意に満ちた日々の中で偶然「松浦亜弥」のPVを鑑賞し、その魅力に衝撃を受ける。それ以来、アイドルオタクとしての日々を過ごすこととなる。
いつまでたっても大人になり切れない「半大人」の青春を描いた作品。どうしようもないダメ人間のダメな人間模様なんやけど、いつしか愛着が湧いてくる。
「この映画良かった」っていうの、若干小っ恥ずかしいけど、大笑いしたし、ホロっとしたし、何より「過去を大事にしまいながらも、現在が何よりも楽しい」という落とし所が爽やかで好きやった。
確かに、中2の俺には「篠田麻里子」が光り輝いて見えてたもんな、と懐かしい気持ちにもなりました。
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆★★
バランス:☆☆☆★★
好き :☆☆☆★★
計 13/20
第9位 くれなずめ
監督:松居大悟
高校時代からの親友が、結婚式を機に再結集する。彼らの”身内ノリ”がガンガンに炸裂する青春映画。
個人的には、そういう”身内ノリ”を観るのは好きじゃない。「ほら、こういうの懐かしいやろ?」的な小手先のノスタルジーに簡単に乗っかりたくないし、そこに意味もなく郷愁を感じて「昔は良かったな」的な、大人になったフリをする空気感が気持ち悪くて嫌いだから。
しかし、本作は、ただ若かりし頃の身内ノリを楽しむだけの映画ではない。バックボーンに男のいじらしさ、ダサさ、愛くるしさが感じられる。
過剰なまでの明るいトーンや、やりすぎな演出もすべて、「大きすぎる悲しみや苦しみ」を描いている。正面から悲しみに向き合ってしまうと支配されそうになるから、あえて、笑い飛ばす。そこに人間臭さや哀愁があって、気が付けば映画にのめり込んでいた。
最初は冷めた目で見ていたのに、気が付けばズブズブはまっていて、一つのきっかけで堰を切ったように感情があふれてくる構成が見事。結局監督の思うツボといった感じやったな。はっきり言ってめっちゃ泣いた。
前田敦子は、女優としては魅力ないねえ~ そこだけ残念やったかも。
エンタメ:☆☆☆★★
テーマ :☆☆☆☆★
バランス:☆☆☆★★
好き :☆☆☆☆★
計 14/20
第8位 空白
監督:吉田恵輔
2021年の映画は、「他人」を、理解不能なモノとしてとらえた作品が多かった。
現代の日本は、コロナの影響やSNSの流行もあり、他人と他人の相互理解の機会が減少した。鬱屈とした空気感は誹謗中傷やネット炎上の事件として形となり、社会の中に悪意が蔓延していることを感じる機会は多かった。2021年は、そんな日本の社会を啓発するような作品が多いと感じた。
人と人との繋がりが希薄になり、社会に潜在的に存在した悪意が表面化されつつある現代の情勢を、映画監督たちは敏感にキャッチしているのかもしれない。
本作はまさしくそういった「理解不能な他人」「不特定多数の悪意」を描いており、人が追い詰められるさまをジットリと描いた作品。
松坂桃李演じる主人公は、スーパーの店長を務めている。ある日、女子中学生が万引きしているところを目撃する。問い詰めるとその女子中学生は逃げ出し、追いかけた先でトラックに轢かれ死亡する。死んだ娘の父親は、「俺の娘が万引きするわけないだろ!」と、激昂し、スーパーの店長を追い詰める。事件にマスコミが食いつき、その報道は過熱していく…
匿名に守られた悪意、振りかざされる偽善、自己実現のために他人を踏みにじる姿、などなど… とにかく鬱蒼として重苦しい映画やった。
しかし、本作の素晴らしい点は、それでも、人間には素晴らしい側面があり、この世には生きる価値があると思わせる余地を残すところ。社会の負の側面を正面から描くからこそ、正の側面をしっかりと味合わうことができる。
最終的にタイトルの「空白」とは何か? と考えを回顧させるのもまた素晴らしい。観た人によって感じ方が変わる作品やろうな。
とはいえ、つらいシーンや描写があるので、観るのに体力・気力は必要。良い映画やけど、鑑賞後に「映画鑑賞ってもっとワクワクして楽しいものなのでは」と思った(笑) まあ、一見の価値は大ありなので、社会派の作品を観たい時は是非。
エンタメ:☆☆☆★★
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆☆
好き :☆☆★★★
計 15/20
第7位 あのこは貴族
監督:岨手由貴子
よそはよそ、うちはうち!
だって、他人をうらやんでも、自分が育ってきた環境、はめ込まれた枠組みの中、でしか生きられないから。比べても意味がない。そんなことは頭で分かっていても、人と比べてしまうのが人間の悲しき性。
「あのこと私は違うから… あのこはあのこで苦しんでるだろうから…」
と、どれだけ理屈で理解したとしても、他人と自分を比べて、不条理に対して嘆きたくなる。そんな人間の絶妙な苦悶を表現した映画。
また、女性の感覚を丁寧に描いた映画であり、いわゆる「男がイメージする女の姿」みたいなものはあまり出てこない。対立煽りのない女性たちの映画、っていうのもなかなか新鮮で、映画の味わいが爽やか。
華やかで苦労知らず、しかし、名家ゆえのがんじがらめの日々に辟易する金持ち女。
自身の能力を環境によって押さえつけられ、苦労を重ねた貧乏女。
相反する世界を並行で描きつつ、韓国映画のような「格差社会反対!」みたいな暗い映画には舵を取らず、女性の精神世界をさっぱりと描き、そこから人間の在り方をあぶりだす構成が見事。
女性が、女性らしく。と簡単に社会はいうけれど、本当にそうなってるかなあ?とか、ひとりひとりの自己実現っていうけど、社会はそれを支えてくれるのかな、とか。そういった深い問題を、決して押し付けがましくなく、さりげなく、考えさせてくれる。
若干男性を劣性的に描いている節はあるが、本質はついていると思う(笑)
高良健吾の演技もとっても見事。
水原希子の演技がかなり良い。
個人的には門脇麦のキャラは好きになれずじまいかな。最後まで割とどうでも良かった。
個人的に「好き度」は低いが、名作やと思う。
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆★
好き :☆☆★★★
計 15/20
第6位 サマーフィルムに乗って
監督:松本壮史
好きなものに全力投球して、監督の「好き!!」が見える映画は好み。
本作は、そんな「好き!!」がふんだんに、コレでもか!と盛り込まれた、エンタメのごった煮ムービー。
若手監督は「エンタメのごった煮」をやりたがる傾向がある。恋愛、アクション、SF、スリラー、いろんなジャンルをぱんぱんに詰め込んで「どや?尖ってるやろ?」みたいなどや顔映画は嫌い。というか下らない。
そのため、この類の作品は勢いだけの陳腐な作品やったりするけど、本作は、好き!を詰め込みつつも、舞台設定やキャラの描写が丁寧で、バランスに優れた映画に感じた。
主人公の「ハダシ」は、映画研究会に所属し、時代劇をこよなく愛する女子高生。
ある日、凛太郎という青年と出会い、「あなたこそ私の理想とする時代劇の主人公にぴったりの人物だ!!」と、自身の監督作品への出演を依頼し、来る文化祭に向け、最強の時代劇作成がスタートする。
高校時代の不器用な感じとか、好きなものに全力投球する感じとか、夢中なものになんか変なケチがついて一気に距離を置いてしまう感じとか、青々しい共感と共に、真っ直ぐ心に刺さってきた。
何よりも、本作でクールな女子高生で主人公の親友である”ビート板”を務めた河合優実がめちゃくちゃ良かった。彼女の名前を知れただけでも十分すぎるくらいお釣りがくる。
ラストの雑さが若干気になったが、これだけ多くのモノを詰め込んで、しっかり成立させるのはすごいと思う。
クオリティの高さというより、このはじけるような魅力と”のど越し”を、さっぱりと味わってほしい作品。夏はもう終わったけど…
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆☆★
バランス;☆☆☆★★
好き :☆☆☆☆★
計 16/20
第5位 由宇子の天秤
監督:春本雄二郎
日本映画は、しばしば「悪意」を軸にメディアやマスコミを糾弾するような作品がある(最近やと『新聞記者』とか?)。
個人的には、「マスコミ=悪」の構図を描く作品はあまり好きじゃない。
マスコミを真実だと信じ切って踊らされるのと同じくらい、マスコミを偽物と信じ込むのも、危険なのではと思う。
例えば先述の『空白』もそうやけど、日本映画はマスコミの描き方があまりにも陳腐な時があって、そういったシーンには、ほとほと辟易する…
本作は、マスコミの腐敗した実態を暴く作品ではあるんやけど、その描き方は非常に真摯である。それこそ、マスコミ=悪と信じ込む構図の危険性についても、満遍なく描かれているように感じた。
本作の主人公の由宇子は、ドキュメンタリー作品の監督である。
彼女が扱っている事件は、女子高生の自殺事件。
女子高生がイジメを受ける➡学校に相談➡学校は面倒事を避けたい➡「君とうちの若手教師が交際している証拠がある。大事になる前に自主退学したほうがいいよ」➡女子高生は絶望して自殺。➡女子高生と交際しているとされた教師「交際してない。これは学校の捏造。死をもって抗議する」と遺書を残し、自殺。
この事件について、マスコミは遺族VS学校の対立を煽った。そして、世間は両者をバッシング。その悪意の魔の手は、遺族にまで及ぶこととなった。
由宇子は、あくまでこの事件の中立的な立場として、ありのままの現実をカメラの中に撮ろうとする。
マスコミの報道とは。真実とは。
由宇子は、事件の闇を暴き、いたたまれない現実をドキュメンタリー作品として残そうと奮闘する。
しかし、そんな真実を追い求める彼女自身が、どうしても隠したい、蓋をしたい、深い深い闇に、当事者として対峙することとなるのだ。
人は、正義の名の下に、真実を追い求めようとする。
しかし、正義とは決して一意的に定められるものではない。由宇子の正義は、時に誰かの悪になり得る。
正義とは、かくも曖昧で不安定なモノ。なのでいつしか、「正義=自分の信じたいもの」になり変わってしまう。
先述した、「メディア=偽装された真実」という構図も、社会がただ盲信したい“あるべき姿”に他ならないのではないか?
カメラを通じて真実を炙り出そうと奮闘する由宇子も、いつしか「正義」という免罪符のもと、エゴに溺れていたことに、自分自身の目を通じて気付かされる。
人が前にも後ろにも進めなくなった状況を、非常に見事に描いた社会派ムービー。
彼女が追うドキュメンタリーの真実。彼女に差し掛かる闇。その双方向のサスペンスが、めちゃくちゃに厚みのあるドラマを醸し出す。
荘厳でコッテリとした脚本を、感情をたっぷり使って楽しんでほしい作品。
え、この作品で5位?
2021年やべ〜〜〜
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ: ☆☆☆☆☆
バランス: ☆☆☆☆★
好き : ☆☆☆☆★
計 17/20
第4位 ベイビーわるきゅーれ
監督:坂元裕吾
出演:高石あかり 井沢彩織
クソ面白い。面白すぎる。
金髪コミュ障根暗女子の社会不適合者まひろと、能天気ネアカぶっ飛び女子のちさと。彼女たちは都内でシェアハウスをしながら、「殺し屋」として生活している。
設定だけやとめちゃくちゃアニメっぽいし、個人的にはかなり苦手な映画やな、と思って敬遠していた。
が、蓋を開けてみれば、めちゃくちゃリアルなワカモノ女子たちの愛おしい空気感と、都会っぽい低血圧感、虚脱感を纏った上質なコメディが展開されており、全然アニメっぽくなかった。この空気感は実写じゃないと表現できない。
荒唐無稽なハチャメチャな映画かと思いきや、その実態はかなりよく出来た繊細な日本映画そのものやった。
すべての展開にさりげなく、それでいて確かなフリとオチがあり、それらがめちゃくちゃ作品のテンポ感とエンタメ感を生んでいた。
ゆるい女子二人のコメディタップリの凸凹シェアハウス生活に、スリリングで血生臭い、殺し屋VSヤクザの抗争が食い込んでくるんやからもう堪らない。
ただの女子高生かと思ったら最強の殺し屋でした、と聞くといかにもハリウッド映画っぽいが、この空気感は日本映画じゃないと出せないな。ハリウッドでリメイクしても、多分おもんない。
社会って世知辛いよね~~~
働くってつらいよね~~~
の、社会の不条理と対面せざるを得ない、モラトリアムからの脱却を、決して面倒くさい説教にならない程度に描く。
ハスに構えた映画かと思いきや、
頑張っている人は賛美され、社会のクズはぶっ殺される、という構図があるから、めちゃくちゃ爽快。
しかも、アクション面のクオリティがエグすぎる。今まで見た映画の中で一番アクションシーンがカッコよかったかもしれん。
エンタメ:☆☆☆☆☆
テーマ :☆☆☆☆★
バランス:☆☆☆☆☆
好き :☆☆☆☆★
計 18/20
第3位 いとみち
監督:横浜聡子
内気な少女が、思い切って「メイド喫茶」でバイトする話。
そう聞くとまたしても、いかにもアニメっぽい〜〜〜と思うけど、全然そんなことなかった。
本作の舞台は「青森」であり、主人公は「ゴリゴリの津軽弁」であり、特技は「津軽三味線」という、超絶青森郷土愛ムービーであり、それ以上に、一人の少女の繊細な感情を見事に表現した映画やった。
“青森”という異世界で、少女が“メイド喫茶”という異世界に飛び込む、観客からすれば二重異世界生活。そのスリリングさが最高に楽しい。
本作は、青森という舞台を、観客の共身を引くためのフックとしてだけではなく、映画を表現するための舞台装置として見事に使いこなしていた。
主人公のいとは、幼き頃に母親を亡くしている。彼女は、周囲の人間に同情されたくないので、決して人前で涙を見せない。やがて、彼女は自身の感情に蓋をするようになる。
バイトの出会いをきっかけに、彼女は自分以外の人が悲しみや苦しみを抱えていることを知る。
みんな大変。だからこそ、支え合って、弱さを分かち合おうとする。それはけっして同情などではない。人と人との関わりの中で、彼女は新たな強さを得るのだ。
「いと」役を演じた駒井蓮の演技力ときめ細やかなルックスはもちろん、作品全体のトーンも絶妙なバランスを持っている。
一歩違えばめちゃくちゃ陳腐な映画になりそうなところを、超上質な「青春」ムービーとして、あくまで上品にまとめ上げた作品。
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆☆
好き :☆☆☆☆★
計 18/20
第2位 すばらしき世界
監督:西川美和
確か公開日に観て、たぶん今年のベストはこれやろなと思った映画。
本作は、服役を終えたヤクザが、足を洗って社会で「カタギ」として生きようと奮闘する話。しかし、社会は「元ヤクザ」と「前科あり」の人間にはあまりにも生きづらく・・・
主人公の三上は、建前で生きることができない愚直な性格。そんな性格の彼は、時には一本気でカッコいい人間に見える。しかし時には、ワガママな駄々っ子のような幼さを感じさせる。
社会というのは、「本音」のみでやりきれない不条理がある。間違っていることに目を伏せ、言いたいことを飲み込む。そんな”要領”が必要な世界やけど、三上にはそれが無い。社会が持つ不条理に対峙するたび、三上は再び”あの場所”へ戻ってしまいそうな危うさを匂わせる。
本来、社会は、そういう一度道を外した人間に対する受け皿となり、更生の機会を与えるべきだが…
実際は、他人のために生きて、他人の幸せを願えるほど、優しい世界ではない。
本作は、「上手くいかないのは社会のせいだ!」と責任転嫁するのではなく、「誰であろうと、清濁合わせ飲んで自分の足で歩かなくてはならない」という残酷な真理を観客に提示する。
素直に、思うがままに、衝動に任せて生きてきた三上にとって、社会は冷たく、彼を拒絶しているように見えた。
そんなつらくて残酷な社会でも、「それでも手を差し伸べ、幸せを願ってくれる人がいる」のことを伝えるのだ。
それは、偽善でも社会奉仕でもない。ただ、人間として接して、人間としての魅力にふれ、人間としての幸せを願ってくれる人が、確かにいる。
「すばらしき世界」。このタイトルは、決して皮肉でも風刺でもない。残酷な側面と裏腹にある、温かく、幸福な一面、幸せを、謳っている。
しかし、そんなすばらしき世界だからこそ、そこに生きる権利を他人から奪ってはならないのだ。本作は、最後の最後まで、世界の真理を突きつける。ラストシーンから、エンドロールが終わっても、しばらく席に座っていたい気持ちにさせてくれる映画は久しぶりやった。
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆☆
好き :☆☆☆☆☆
計 19/20
第1位 ドライブ・マイ・カー
祝、日本映画アカデミー最優秀作品賞ノミネート!!
これはもう凄いことやんね。個人的には、最優秀作品賞を受賞した『コーダ』が取るなら『ドライブマイカー』が作品賞で良くないと思った?。コーダもいい映画やけどね。
180分の映画やけど、それが苦痛にならない映画ってすごい。
難しそうな映画やなと思ってたから構えてたけど、死ぬほど面白かった。
人は言葉の真意を読み取ろうとし、その闇を暴こうとする。にもかかわらず、いつかそれに気づいても、見て見ぬふりをする。
本作は、非常に巧みに、言葉を繋いだ映画。
ファーストカットからやけに意味ありげに紡がれる言葉の連続。その真意を紐解こうとする観客の気持ち虚しく、その言葉はより文学的に深まり、芸術を帯びていく。
うわあ、よくわかんね・・・
と思った。
謎まみれだが、本作の「よくわからんポイント」は、主人公がある日偶然目撃してしまった恐ろしい“真実”により、急に手触りが変わっていく。
たった一つのフックがかかっただけで、次第に冒頭で紡がれていた「よくわからん言葉たち」に意味が生まれていき、どんどん繋がっていく。
やがて、それが黒く染まっていく感覚がたまらなくゾクゾクして楽しかった。言葉の意味が分かってきて、理解が深まると同時に、あらたな謎が生まれ、ミステリーが深まっていくのだ。
主人公は舞台監督。新たな舞台のオーディションを実施し、稽古を開始する。
彼の稽古場への移動手段、それは彼の愛車サーブ900ターボ。舞台を主宰する会社の取り決めにより、彼に専属のドライバーがつく。
車とは、主人公にとって精神世界そのものであり、現実からの逃げ場そのもの。なので、初めは彼もその車にドライバーを乗せることを拒む。
会社が選んだドライバーの渡は、そのドライビングテクニックと、空気感により、車に溶け込み、やがて主人公の精神に溶け込んでいく。
本作の優れた点は、人と人との関わりを、非常に興味深く、繊細に描いている点。
主人公の舞台は、日本語だけでなく、色々な国の言葉をクロスオーバーさせる独特なスタイルを持っている。彼の作品にとって言葉とは、コミュニケーションの手段ではなく、表情や仕草、体のすべてが感情を表現する。
しかし、そんな「言葉≠コミュニケーション」と考える主人公が、もっとも「言葉」にとらわれていたのだ。彼は、人の感情を読み取ることと、自分の感情を表現することを恐れ、「言葉」に頼り、心に自ら鍵をかけていたことが明かされていく。
人と人との心の交流が、言葉ではなく「空間」で満たされる様を丁寧に、ふんだんに時間をかけて描かれる。
本作は、「言葉」や「コミュニケーション」を主題としながら、「言葉を介さないコミュニケーション」を素晴らしく描く。車の中でタバコの煙を逃すシーンなんて、歴史に残る名シーンやろう。
開幕からラストまで、ひたすら魅了された180分間。こんなの、もう滅多に味わえない。
エンタメ:☆☆☆☆☆
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆☆
好き :☆☆☆☆☆
計 20/20
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ということで、今年の最強映画は『ドライブ・マイ・カー』でした。
難しい映画のようで結構誰でも楽しめる作品やから、ぜひ見て観てね。