一日一本映画レビュー 『ヘイトフル・エイト』
原題:The Hateful Eight
公開:2015
出演:サミュエル・L・ジャクソン カート・ラッセル ジェニファー・ジェイソン・リー
嘘と血にまみれた密室劇
以下感想。
クエンティン・タランティーノの監督作品8作目、『ヘイトフル・エイト』。映画のタイトルにわざわざ「タランティーノ 8th フィルム」って書いてあったから、8作目と「エイト」は偶然じゃないやろうな。
タランティーノの映画は『キル・ビル』シリーズ以外は観た。初めて見たのはタランティーノの初監督作品である『レザボア・ドッグス』で、宝石強盗をもくろむ犯罪者集団の中に警察がまぎれているという話。お互いを「ミスター・ブルー」とか色のコードネームで呼び合ったり、くだらない会話を流したり、とってもクールでバイオレンスな映画やった。彼の作品はいちばん『パルプ・フィクション』が好きかな。
タランティーノの作品の特徴をあげるのは結構難しくて、実際に観れば明らかに癖と味があることが分かるんやけど、それを言葉にするのは難しい。あえて言うなら、
・くだらない会話劇がとてもとても長い
映画の半分以上はキャラクターが話しているだけのシーンでできている。意味のない話をしている(脚本上あまり関係ない)ことが多いんやけど、なぜか引き込まれてしまう。タランティーノの作品が合わない人は、この長ったらしい会話劇を退屈に感じる人が多い印象。
・音楽の使い方が独特かつ、かっこいい
『レザボア・ドッグス』のオープニングアクトの『Little Green Bag』はあまりにも有名。多くのパロディやオマージュのもとになっている。『パルプ・フィクション』の『ミザルー』や『ジャッキー・ブラウン』の『110番街交差点』など、とてもカッコいい音楽の使い方が印象深い。
・バイオレンス・流血が多い
タランティーノの作品といえばバイオレンス。流血がめちゃくちゃ多い。タランティーノの作品が合わない人は、この点も苦手ポイントになりがち。とはいえ、見せ方がうまいので、ユーモアやクールな演出として爽快感がある。暴力表現、人体損壊・流血描写が苦手な人は注意。
上記3点に興味がある人は、今すぐ『パルプ・フィクション』を観よう。(グロくないよ!)
本作『ヘイトフル・エイト』は、レビューを見る限り、タランティーノが好きな人の間でも何となく評価が分かれているみたい。個人的な意見としては、確かにタランティーノの「らしさ」が出ていないような印象を受ける瞬間もあるが、しり上がりに作品にエンジンがかかっていき、終盤にかけて大きくカタルシスが生まれる展開は、さすがのタランティーノといった感じ。アクの強いキャラクターは魅力的なうえ、出演する俳優陣は最高。個人的に西部劇の空気感が好きなのも相まって、とっても魅力的で最高なエンタメ作品と思った。
【オープニング~中盤】
オープニングアクトは割と静的。くだんの会話劇に入るまでも、割とたっぷり時間を使っているイメージ。ユーモアの色は薄く、他の作品に比べると、やや重めの入場な印象。
サミュエル・L・ジャクソンの登場と、カート・ラッセルとの邂逅は、クエンティン・タランティーノ作品を観ている実感を強くさせてくれた。容赦なくぶん殴られるジェニファー・ジェイソン・リーも、いかにもタランティーノ作品といった感じ。額から血を流して鼻血だらだらでもケロッとしてるけど。『ジャンゴ』で嫌な奴を演じてたウォルトン・ゴギンズも登場し、キャラクターの雑談劇が盛り上がっていく。時代背景が南北戦争後のアメリカなので、戦争や政治の話が多い。くだらない雑談というよりは少し意味を持っているので、たしかに「らしさ」がないと感じる人がいるのもうなずけるな。日常の取るに足らないユーモラスな会話ではないので、やはり少し重めな印象。
【中盤】
密室サスペンスという触れ込みの映画ながら、その密室がなかなか出てこない。まあ、この密室サスペンスという触れ込みは少し本作の本質を外していて、プロモーションのための文言に過ぎないと感じた。肩透かしを食らう人もいたんやろうな。
そもそも、この作品がどのような脚本で展開していくのか、どんな話なのかが分かりにくい。このもったいぶりと分かりにくさはタランティーノ作品では珍しいことではないけど、初めてタランティーノ作品を観た人なら、ぽかんとしてしまう可能性があるな。
開始一時間くらいで展開する密室劇。ティム・ロスとマイケル・マドセンの登場が頼もしい。やはりこのあたりからは映画がどんどん面白くなっていくのを肌で感じた。
この密室劇の舞台となるのが『ミニーの紳士服装飾店』という場所なんやけど、このセットがめちゃくちゃ魅力的。ドアが壊れたから板を打ち付けないと閉められないくだりとか、最高に面白かった。カート・ラッセルとジェニファー・ジェイソン・リーもなんかいいコンビになってるのが面白い。まあ、当然形だけやねんけど。
【殺し合いの開始】
この映画は公開時にR-18指定が付いたくらいで、かなり血みどろ。なんでR-18なのかはわからないけど(多分、あまりにも下品すぎる描写があるから)、間違いなくR-15指定はつくレベルなので、過度に苦手な人は注意。グロテスクなスプラッタ描写はないけど、とにかく血が多い。
登場人物がみんな訳ありというかウソだらけで、会話劇から殺し合いに発展していく。そのさまが痛快で面白い。人もいきなり、かつ派手に死ぬ。
【ラストにかけて】
劇中の人物は結構みんな割とくそったれで、西部劇らしい「道義」みたいなのは微塵もない。正当防衛のために銃を抜くよう煽りまくったり、不意打ちしたり、毒殺したり、罪のない人を殺したり… まあとにかく下品で欲深くて嘘まみれ。
だからこそ、映画のエンドがめちゃくちゃ爽やかに感じる作品だった。このバランス感覚は本当に優れていて、監督の特有の味わいを残しつつも、映画に含みを持たせ過ぎない、あとくされのないエンディング。最高に楽しかった。170分があっという間に感じた。チャニング・テイタムの脳みそが吹っ飛ぶシーンとトイレに銃を捨てに行った直後にカレー的なシチューを映すシーンが一番笑った。
【やはりエンタメとして最高】
クエンティンタランティーノ作品は久しぶりに観た。二年前くらいに公開された『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も最高やったけど、個人的にはこっちのほうが好きかな。タランティーノ作品の中では三番目に好き。
こうなったらタランティーノ作品をコンプリートしたいので『キル・ビル』を観なきゃと思うんやけど、どうしてもB級映画(明らかにそういうコンセプト)に興味を持てない。とはいえ多分面白いので観てみようっと。
タランティーノ作品に興味を持っている人は、『ヘイトフル・エイト』より先に『パルプ・フィクション』を観ると、より本作の魅力が味わえるかも。
【タランティーノ作品個人的ランキング】
キル・ビルは観てないので除外
8位 ジャッキー・ブラウン
ラストが最高やし脚本もよくできていて面白い。
が、やはり映画としては少し地味な印象。タランティーノ作品特有のハイになるようなエンタメ感は薄い。
タランティーノ流のラブコメともいえる、おしゃれでハイセンスな映画
7位 レザボア・ドッグス
タランティーノ作品の礎を築いた作品。のちの多くの作品に多大な影響を及ぼしたと思う。彼の作品の中では結構芸術性が強く、本作を最も高く評価する人も少なくない。
タランティーノ流の「仁義」の描き方が、何となく彼がヤクザとか好きなんやろなというのが伝わってくる
6位 デス・プルーフ
もっとも笑えるタランティーノ映画やと思う。車で女の子を惨殺する趣味のおっさんを成敗する話。B級過ぎる。
映画好きからすこぶる好評の映画で、溜めて溜めて・・・バイオレンス解放!のエンタメが最高に楽しい。最初の30分くらいは結構マジで退屈
ナチスを殺しまくる部隊の話。殺し方がめちゃくちゃ残忍。
クリストフ・ヴァルツのキャラクターが最高に不気味で素晴らしい。マイケル・ファスベンダーの心理戦シーンも、タランティーノの会話劇の面白さ、ワンシチュエーションでの緊迫感の演出の見事さを痛感させる。正直ブラピが食われてるくらい味が濃い。バイオレンスが割とキツめ。見終わった後の充実感が高い
4位 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
凄惨な歴史や事件にエンタメで立ち向かうタランティーノの姿勢がよくわかる。そもそもレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが同じ映画で大暴れしている時点で最高に価値がある。
映画に対する深い愛情と、エンタメの役割に対する彼の価値観がよく見える一本。ラストのカタルシスが最高。
3位 ヘイトフル・エイト
あまりにも面白かった。サミュエル・L・ジャクソンの出演作で一番好き。
西部劇の中でも(西部劇のくくりにしていいかはわからないけど)1,2を争うくらい好きな映画。
2位 ジャンゴ 繋がれざる者
ヘイトフル・エイトで西部劇の中で好きっていう文章を書きながら、ああ一番好きな西部劇はこれやったなと思いだした。
とにかくレオナルド・ディカプリオの圧倒的なカリスマ性と演技がたまらない一方で、最終的に最高にジェイミー・フォックスがカッコいいという構造。すごすぎ。
会話劇、バイオレンス、カタルシス、どれをとっても超一流。ダークヒーロー映画としても最高に楽しい。
1位 パルプ・フィクション
ようわからんけど、なんか面白いし、なんかカッコいい映画。
トラボルタのツイストも、ブルースウィリスの武士道も、サミュエルの演説も、何もかもが印象深くてカッコいい。オシャレさ、芸術性、そしてエンタメ性を、最高のバランスで混ぜ合わせている。