一日一本映画レビュー 『ゲット・アウト』

ゲット・アウト

 

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原題:Get Out

公開:2017 

監督:ジョーダン・ピール

出演:wダニエル・カルーヤ アリソン・ウィリアムズ 他

 

「出ていけ!」

 

以下感想。

 久しぶりに書く。

私生活落ち着いたから、ここから毎日投稿できるといいな。

 

映画自体は観てて、今は心に余裕が持てて映画を観るのが非常に楽しい。

そんな中、ちょっと怖い系のスリリングな映画が観たくなって、こんな作品を見てみた。

前々から名作とは聞いていて、興味はあったんやけど、いかんせん、この作品の監督の別の作品『アス』があまりハマらんかったから、敬遠してた。いやー。もっと早くに見ればよかったな、この作品。そう思わせてくれるくらい、大きく期待を超えた面白い映画やった。

 

主人公のクリスは白人の女の子と付き合ってるんやけど、「今度彼女の家に泊まりに行くことになったけど、彼女の両親は受け入れてくれるかな?」という不安を抱えている。彼女は大丈夫よなんて言うんやけど、クリスの顔からは心配が消えない。

日本人にとって白人と黒人の差別問題ってあまりなじみ無いと思うんやけど、いまでもそういった差別意識ってのは残ってるんやろうな。

 

この映画の開幕のシーンが、黒人が車でさらわれるという謎のシーンで、そこから急激に明るい画面で物語が進行していく。

このギャップですでに不穏感が募るんやけど、そこからさらに、細やかな会話や表情で、「何となく落ち着かない」空気感がずっと持続する。

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なんやかんやで彼女の家に行くんやけど、この彼女の家というのがまあ居心地が悪い。主人公の彼女のローズも、かわいくてハキハキした良い子なんやけど、何となく会話がかみ合わないというか、時折「なんやねんこいつ」と思わせる瞬間があったり、彼女のお父さんの尊大な感じや、お母さんの不気味な作り笑い、ウザがらみしてくる彼女の弟など、なんか歪で、歓迎されてるのか、見下されているのか、何となくぎこちない時間が流れていく。

その不穏感を特に煽るのが、彼女の家にいる二人の黒人の使用人。客人として招かれるクリスを、奇妙な表情で迎え入れる。この時点で観客としては「この映画は黒人差別問題をとりあげてるんやろな」という意識があるから、この二人の存在とクリスの対比が、後に起こる悲劇を何となく予感させる。

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こんな感じで、スタートから常に観客に不穏感や居心地の悪さを感じさせつつスリラーとして、サスペンスとして楽しませてくれる。そして、その中でより奥深いレイヤーで観客の意識を運んでしまう脚本が見事。

とはいえ、黒人差別…とかいう文言を聞くと、「正直重いわ」とか、「思想強そうでめんどくさい」と感じることも少なくないんやけど、この映画は、思想やメッセージの押しつけはせず、ドキドキするホラー要素と伏線が暴かれていく謎解き的要素がかみ合っていて、あくまで「エンタメ映画」としてしっかり楽しめる構造になっている。

伏線やメタファーを深読みする派も、そうじゃなくて単純に映画を楽しみたい派も、どちらも文句なく楽しめる!!

 

黒人監督が黒人差別を題材にした作品を描くとなると、やはりどこかで「被害者意識」みたいなのが見え隠れして、何となく卑屈な映画になることがある。しかし、この映画は黒人差別の問題を取り上げているとは考えられるのだけれども、人間が抱える負の感情を想起させるような作りになっているから、思想に苦笑いすることは無かった。

スパイク・リーほどは痛烈ではなく、アリ・アスターほどカルト的でもなく、ヨルゴス・ランティモスほど不可解ではなく、デヴィッド・フィンチャーほど芸術的でもなく、クエンティン・タランティーノほどエンタメでもない。まあ映画通的なこと言いたいだけやねんけど、要は、バランス感覚が良く、それでいて個性を感じる監督やなと思った。

 

人間って、きっと誰しもが他人より高く居たいと感じていて、それは当然のことなんやけど、コンプレックスを抱えても仕方がないから、時に妥協したり相手を受け入れたりすることで自分を保っているんやと思う。最も愚かしいのは、そういったコンプレックスを、不遜な態度で相手に出したり、隠しているようで隠せていないことやと思う。

今作は、白人の金持ちが集まるパーティに出席する、というシーンがあるんやけども、そのシーンは最高に興味深いし、面白かった。あのあたりが一番映画に没入してた。

 

○○差別、という問題は、日本にもたくさんあるけど、時に、根本的な差別意識が改善されていないのでは、という違和感を感じることがある。

もちろん日本人の俺であっても黒人の差別というのは社会の非効率であり、例えば黒人奴隷制度なんていうのは負の遺産やと思う。しかし、そういった問題は「白人が黒人を称賛する」時に現れる”上から目線”が改善されていなければ、根本的な解決には至らないやろう。

第三期があればオバマに投票する、彼は偉大な大統領だ

タイガーはいい選手だった

彼らの言葉から漏れ出る不遜なにおい。

もしかすると、監督は差別問題の中の問題意識の根本的なずれ、違和感を感じていたのではなかろうか?

リトルマーメイドの主人公を黒人女性にすることが、果たして本当に黒人差別問題意識といえるだろうか?そこに差別者の深層意識からくる「上から目線」はないのか?

強い言葉で誤解を恐れず言うならば、この映画は、「ポリコレ野郎こそが一番の差別主義者」といっているような気さえした。

 

『アス』に比べると、単純に、そういった思想を感じ取らずとも面白い作品になっていた。『アス』はこれより後の作品やけど、これを見た後なら『アス』に対する期待値が爆上がりしても仕方ない。★『アス』は世界的に割と高め(たぶんゲットアウトよりは下がる)の評価を得た

 

なんにせよ、スリラーやサスペンスでドキドキしたいときには強くお勧めできる。

ホラー的演出は少しあれど決して「ホラー映画」ではないから夜中に一人でも観れる。

 

エンタメ:☆☆☆☆★

テーマ :☆☆☆☆★

バランス:☆☆☆☆☆

好き  :☆☆☆☆★

計    17/20

 

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