1日1本映画レビュー 『スタンド・バイ・ミー』

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スタンド・バイ・ミー

 

原題:『Stand by Me』

公開:1986

監督:ロブ・ライナー

出演:リヴァー・フェニックス

   ウィル・ウィートン

     コリー・フェルドマン

     ジェリー・オコンネル

 

 

得る何かと、失う何か

 

 

以下感想。

 

 

【観客に寄り添うノスタルジー

 

 

少年たちのひと夏の冒険譚、というシンプルな映画。

 

4人組の少年たちが、行方不明になった少年の死体を探しに行こう!と思い立ち、旅へ出かける。

 

「人口1281人、この街が僕たちの全世界だった」

 

という文言の通り、少年たちは狭い世界で、退屈な日々を全力で生きている。

幼い彼らでも、彼らなりに重いモノを抱え、その重さをぼんやりと感じながら、どこかけだるい日々を送っている。

 

そのリアリティが絶妙で、キラキラした青春ムービーというよりは、観客に寄り添ったヒューマンドラマといった感じ。

 

自己実現のためのモラトリアム、にすら対面していないような子供なんやけど、彼らなりに悩んで、もがいている。

それをあくまで繊細に、絶妙に示しているのが爽やかで心地いい。

 

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【血の通った、映画の質感】

 

少年時代の友情という、二度とは戻らないモノを、輝かしく、それでいてどこか切なく描いている。

 

とにかく、子供たちの質感が素晴らしい。

演技はそんなに上手いって感じでもなく、抑揚も薄いんやけど、演技っぽさがないというか、本当に仲のいい子供たちのような空気感がある。

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ささいなことで喧嘩したり、仲直りしたり、大笑いしたり、泣いたりと、あふれ出る新鮮な感情にリアリティがあるから、素直に彼らに感情移入ができる。

 

大人になったふりをしながら、少年時代を全うする彼らは、そんなありふれた感情の中から少しずつ現実に直面する。

 

主人公のゴーディは、内向的な性格をしている少年。

彼の兄はフットボールの花形選手であり、両親も兄をひいきするものだから、劣等感を抱いていた。けど、兄は家族の中で常にゴーディの味方でいてくれた。

そんな優しくカッコいい兄は、不運にも事故死し、両親は悲しみに明け暮れ、ゴーディに興味を抱いていない。

 

いつ見てもどこか退屈そうな彼は、幼いながらに人生の儚さを悟り、自身の才能に絶望しているように感じた。

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映画の中で、死生観や人生観について向き合わされることがあることに驚いた。

 

子供たちなりに、言語化できない「妙な絶望感」を味わい、彼らはその正体も分からず涙がこぼれてしまう。

 

大人になってこの映画を鑑賞すると、ある人は当時の感情を思い出し、ある人は今の自分と重ねてしまうと思う。

ノスタルジーを呼び起こすだけでなく、今も心に残る「何か」を揺さぶってくるから、いつまでも名作として扱われているんだろうなと思った。

 

 

 

そんな揺らぎ壊れそうな感情を見事に支えてくれる存在がいる。

それが、このクリス。

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4人の中でボスというか、リーダー的な存在で、一番のヤンチャ者。

 

彼は彼で父親はアル中、兄貴は不良という家庭環境。

クリスも自分の人生に対してなんとなく絶望感を抱いていて、このままワルの道を進むしかないと悲観している。

 

しかし、友情に厚く、正義感も強い。

人の感情に敏感で、ゴーディの心の機微にも寄り添ってやる。

それがもうカッコいい。素直にカッコいい。

 

ゴーディにとって、自分にない強さを持っていて、尊敬している人物。

もちろん子供が「尊敬」なんて言葉は使わんねやけど、その感覚が見事に伝わってくる。

 

 

 

 

【少年たちの”一つ奥”の友情】

 

 

 彼らの冒険は、ワクワクとドキドキ満載で、そのあたりエンターテインメント映画としての面白さを感じた。

彼らの精神世界に焦点を当てたドラマでも良かった気もするけど、古臭いながら楽しいエンタメとして満足感があるからOKかな。

 

 

退屈な日々のスパイスのような冒険劇は、彼らの一つ奥の友情を描き出す。

自分だけが人生に悩んでいる、なんて大人ぶってたけれど、みんなそれぞれ悩みを抱えているということに気付き、子供たちにもいろいろな現実が見えだしてくる。

 

 

映画全体のトーンが、どこかメランコリックというか、キラキラしてないのがすごく心地いい。

子供たちが仄暗い現実と将来、世界の無常を知って、少しだけ憂鬱になっている心情が、映画のトーンとして表れているのが素晴らしい。

 

 

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彼らに立ちはだかる壁、それは街の不良たち。

小学生に突っかかり、暴力で退屈をしのぐ日々。

 

彼らと対峙するのは、大人になるための通過儀礼の様だった。

モラトリアムを消費し、ゴロツキとなった彼らは、まるで少年たちの負の未来のように見えた。

 

 

 

【リアリティのある終わり方】

 

子供のころ、立ち入り禁止の場所に入ったり、親には言えないようなことをした経験って、多くの人があると思う。

秘密を共有した仲なのに、今その人とは連絡を取っていなかったり、何をしているか知らないっていうのは珍しくない。

 

子供の時は、日々についていくのに精いっぱいで周りが見えていなかったりして。いま少しだけ大人になって、なんとなく思い返した時、子供の頃のあの体験が今の自分を作ってる、なんて思い返すような、ささやかなノスタルジーを呼び起こす。そんな作品。 

 

 

エンタメ:☆☆☆★★

テーマ :☆☆☆☆☆

バランス:☆☆☆★★

好き  :☆☆☆☆☆

計  16/20

 

エンドロールに流れる、あの有名曲を聴けば、必ず魅了される名画です。

 

 

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