一日一本映画レビュー 『フロリダ・プロジェクト ~真夏の魔法~』

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『フロリダ・プロジェクト ~真夏の魔法~』

 

原題:The Florida Project

公開:2018

監督:ショーン・ベイカー

出演:ウィレム・デフォー

   ブルックリン・プリンス

   ヴァレリア・コット

 

色とりどりの現実

 

以下感想。

【ハートフルドラマ的先入観】

ポスター、予告、サブタイトルを観るといかにもハートフルな映画って感じがするけど、正直そういった映画を求めている人にはオススメしない。

結構評価も二分されていて、どちらかというと否によってるイメージ。というのも、この映画自体が全くハートフルドラマじゃないし、観る気持ちよさも薄い。どちらかというと、凄惨というか過酷というか、そういった現実を描いている社会派作品。

なので、小難しいことを考えたくない、真っ直ぐに感動できる家族ドラマを求めている人は、これじゃなくて『アイアムサム』を観よう。

 

【徹底した映画の構造】

フロリダ・プロジェクトというディズニーが推し進めた「夢の国作成計画」。そのフロリダ・ディズニーランド近くに住む貧困層の母娘の姿・苦悶をありのままに描いた作品。

 

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徹底した「子供目線」で、ビビッドな色彩に溢れた残酷な現実を映し出す映画やった。

まず、映画の目線がすごく低い。映画の大半に子供が出演する・映画の軸が子供ということもあり、映画の視点は下から上で、建物なんかはかなり大きく広い印象を与える。

さらに、映画の画の中は常にビビットな色彩に溢れている。目を引く鮮やかな色見が眩しい。


その中で群を抜いて素晴らしいのは、リアリティある空気感。
子供たちは演技をしているようには見えないし、大人たちもその瞬間を生きているように思えるほど、キャラクターの息遣いがリアルやった。
夏の暑い日、子供たちは冒険に満ちた世界を歩き回る。本当の子供が本当にそこで遊んでいるかのような質感が驚きで、もはや演技とは思えない。子供にとっては何気ない日々が驚きと感動に満ちた世界であることを再認識した。

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【画で語る】
この映画は、徹底して多くを語らない。
登場人物たちの暮らし、社会的地位、性格、関係、それら全て、映画の中の映像でじっくりと感じ入らせるというのが素晴らしい。逆に言うと親切な設計ではないから、話が分からないのにガンガン進んでしまう感覚もあるかも。


徹底した低い目線とカラフルな画、そこに子供には受け入れ難い現実を見事に絡めて描くことで、嫌でも本作が持つテーマを目の当たりにする構造になっている。
夢の国ディズニーランドの裏側にある、貧困の現実は、社会問題を考え直すキッカケをくれるものやった。

 

【賛否のポイント】
正直なところ、登場する親子は救いの手を差し伸べたくなるような者たちではなかった。資本主義が生んだリーマンショックのしわ寄せをモロに受けた社会的弱者ではあるんやけど、その現状から立ち直ろうと奮闘する人間とは到底思えない。

しかし、彼女たちをひとえに責めることも出来ないのが現実。

主人公のヘイリーは自己中心的で怠惰な母親でありながら、娘を大切に思う愛情も持ち合わせている。その娘ムーニーは、母親の自己中心的な性格を受け継ぎ、他人に迷惑をかけることを遊び程度にしか感じていない。とはいえ、子供の美しい純真さがあり、かわいらしさもある。人間的魅力を映すからこそ、この映画は面白いのと同時に、人々の反感を買うのかもしれない。というのも、彼女たちが立ち上がれないのは社会のせいだと、どこか責任転嫁しているように感じてしまうから。世の中の母親はもっともっと苦労して覚悟をもって子供を育てているやろうから、ヘイリーの姿はすごく醜く映る。映画のスタンスもどちらかというとヘイリーに寄っていて、それが観ていてすごく不愉快に感じる人も多いやろう。

 

とはいえ、臭いものに蓋をするように目を背け夢の世界に浸るのではなく、向き合わなければならないというの事実なはず。

ウィレムデフォー演じるボビーが厳しくも大きな愛で彼女たちを見守っていたように。映画全体が社会に求められるべき姿を教えてくれるようにも思えた。

 

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【風刺に寄ってしまう残念さ】

映画は全体として少し「社会風刺」に寄ってしまったように思った。

フロリダ・プロジェクトというタイトルとビビットな色彩をふんだんに用いながら、ディズニーの空気感とは真逆の現実を描き出すという試みは面白いし素晴らしいのに、映画自体が意図的に風刺によるというか、社会の皮肉による姿勢が見えたのはスマートじゃないと感じた。それによって、先述したような「社会への責任転嫁」が見えたかな。ラスト5分くらいは本当に好きじゃなかった。

 

【しかし心に残る映像芸術】

悪い部分が目立つけど、個人的にはかなり素晴らしいというかレベルの高い映画に感じた。

徹底した空気感と、観客に社会問題に対面させる構造。エンタメとして以上に、芸術のレベルでの楽しみ方というか感動を久しぶりに味わった気がする。

好きな映画ではないし、人にお勧めは特にしないんやけど、映画がもつテーマやメッセージ・映像を通じた芸術表現に触れたい人はぜひ見てほしい。

 

エンタメ:☆☆☆★★

テーマ :☆☆☆☆★

バランス:☆☆☆☆★

好き  :☆☆☆★★

合計 14/20