一日一本映画レビュー 『仁義なき戦い』

仁義なき戦い

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原題:仁義なき戦い

公開:1973年

監督:深作欣二

出演:菅原文太 松方弘樹 田中邦衛 伊吹吾郎 渡瀬恒彦 金子信雄 他

 

愚直で滑稽

なのに、白か黒で、芯をもって生きようともがく姿に、たまらなく惹かれてしまう

 

以下感想。

 

 東映映画の代名詞】

毎日投稿は問題なく失敗したわけやけど、映画は観てます。

東映といえば、波打ち際の映像と共に出てくるアレ。
そこからあの有名な「チャララ~~」のテーマが流れて、一面に仁義なき戦いの文字。

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いやー、カッコイイな、このオープニング。無駄がない。思い切りのいいオープニングがかっこいい。

東映映画、ひいてはヤクザ映画の代名詞的な映画。やっぱりこれだけ有名になる作品、文句なくおもしろかった。

 

映画の構成とか面白さって割と時代によって異なる部分あると思うんやけど、こういった70年代くらいの古い映画は、恐ろしい程テンポがよく、退屈がない。今見るとあまりにも古臭かったりチープやったりするけど。とはいえ、退屈な時間が少ない映画はそれだけでみてて楽しい。

本作の凄いところは、テンポが良いのに、キャラクターの個性が立ってるし、ドラマの展開が分からなくならないところ。しっかりとカリスマ性や魅力を持ったキャラクターで画面を埋めてくれる。

 

【仁義「なき」戦い】

タイトルの通り、任侠映画ではあるんやけど、裏切りと造反まみれ。

極道のカッコよさを描く映画かなと思ってたんやけど、本質的には、かなり彼らを滑稽に、ありのままに描いているように思えた。

もちろん、現実世界においてヤクザってホンマに怖いし、反社会的組織であるのは違いない。けど、なぜだか、それは俺が高校のとき「ワースト」を読んでいたように、ああいう人らにどこかでカッコよさというか、憧れみたいなのを抱いてしまう矛盾ってあると思う。

けど、それは非合法的な生き方がしたい、というわけではなく。一般人の中で暴力を盾に肩で風を切って歩きたいわけでもないし、毎日を喧嘩や喧騒の中で生きたいわけでもない。憧れの源泉は、彼らの義理と人情という生き方、裏表なく、白か黒かで生きるその姿が、たまらなくカッコいいからやと思う。

たぶん、今時そんなんは時代遅れで、多くの映画でも、例えば最近の「ヤクザと家族」とかはそうやったけど、義理と人情なんてものは創作の世界に過ぎないのかもしれない。

 

実際、この映画の主人公もそう。

義理と人情、任侠の精神で、一本木で生きようとする男。

なんやけど、ヤクザの世界の実情は利益と造反ばっかりで、もはや義理や人情など持っていれば、良いように利用されるか、あっさりと死ぬかのどちらかしかない。

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ゴロツキだった自分を拾ってくれた親分、獄中で契りを交わした兄貴、彼から受けた恩義にひたむきにこたえようとする広能。

にもかかわらず、その肝心の親分がまあなかなかの汚れ野郎なのよね。

こいつがたいていの組の中のもめごとの元で、実際組員からもアイソを尽かされ気味。これはこれで哀愁というか人間の生命力を感じ、キャラクターとして個性が立っているんね。

そんなクソ親分に、育ててくれた恩義が…といって尽くす広能。

何でやねん、アホくさ!と思うんやけど、その愚直さが、ヤクザに抱いてしまう憧れを擬人化しているようで、まあたまらなくかっこよく見える。

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【ドキュメンタリー的な手触り】

包丁で自らぶった切った小指をみんなで探すシーンとか、映画の中で割とブラックなユーモアが効いてるシーンがある。

仁義なき戦い、というだけの事あって、割と、ヤクザを冷ややかな視点で描いているように思えた。もちろん、それが、主人公の魅力とのコントラストを生んでいるわけやけど。

 

やはり、映画を見進めていくと、普通に生きればいいのに、まっとうに働けばいいのにと思えてくる。

結局、彼らはまっとうな社会に適合できなかっただけなのかな、と、ヤクザという組織そのものに、どこか冷ややかな視点を持ってしまう。

白か黒であって、その中間に染まらないところ。利益よりも、恩義や義理という見えないものでつながっているところ。そんなヤクザのイメージを神話的に描くのではなく、あくまで、リアルに描いているところにとても興味深さがあった。

 

しかし、なんだかんだで、広能昌三という男の色気、カッコよさを軸にしているから、カッコいい任侠映画というイメージを崩さずに、エンタメとして観客を楽しませてくれるのは、ホンマに見事。

バイオレンスは多いけど、このテンポの良さとかっこいい人間の描き方という点に着目して、ぜひ見てほしい。

 

時代が変わって、当然価値観も変わっていったけど、それでも、男が忘れてはならないあこがれやカッコよさが、この映画にはある気がする。

菅原文太も、松方弘樹も、梅宮辰夫も、田中邦衛も、渡瀬恒彦も、みんな死んだ。当時の人たちはショックなんやろうな。

この人らのすごみは、時代が違う今の俳優さんでは、演技力云々ではなく出せないと思う。昔の映画でしか味わえない魅力を、ぜひ楽しんでみてほしい。

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エンタメ:☆☆☆☆☆

テーマ :☆☆☆☆★

バランス:☆☆☆☆★

好き  :☆☆☆☆★

計 17/20

 

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