1日1本映画レビュー 『荒野にて』
『荒野にて』
原題:『Lean on Pete』
公開:2017
監督:アンドリュー・ヘイ
出演:チャーリー・プラマー
トラヴィス・フィメル
青くて熱い心の置き場所
以下感想。
【ロード・ムービーの魅力】
ロード・ムービーの魅力ってすごい。
ロード・ムービーっていうのは、いわゆる旅を軸にした映画。
主人公が旅をする中で、いろいろなものと出会うというような映画が多い。
ロード・ムービーっていうのは、「自身と向き合う」というテーマが軸になっていることが多いから、それだけ登場人物の精神世界や感情に寄り添うことが出来るんよね。
また、壮大なフレームと、長いカットで彩られることが多くて、その静かな空気感に没入できるのがすごく楽しい。
この『荒野にて』という映画は、たしかにロード・ムービーの様相を呈しているんやけど、開放的で壮大なイメージは薄く、いかんせん窮屈というか、息苦しくなるようなシーンが多い。
しかし、それがこの映画の魅力に他ならない。吐き出したくなるような若い力やエネルギーを感じることが出来る。
主人公のチャーリーは、父親と二人で暮らしている。
多くは語られないが、どうやら彼の母親は彼らを捨てて出て行ってしまったらしい。
「俺とお前でやっていこう ダメな親父だけど、俺はお前と二人でいたい」
と、父親と二人でささやかな暮らしをしている。
チャーリーは、ひょんなことから競馬の馬主の手伝いをするというアルバイトを始める。
馬の魅力に触れ、次第に競馬に夢中になっていくチャーリー。
そんな中、なんと父親が殺されてしまい、一人になってしまう。
頼れるのは、何処にいるかもわからない叔母一人だけ。
【若い力を阻む大人の現実】
この映画の面白いポイントは、映画に関わる人物たちが興味深いこと。
映画は、青年のチャーリーを中心に置き、比較的長いカットを多用し、じっくりと青年の心の機微を描いている。
にもかかわらず、彼を取り巻く登場人物たちは興味深く、定型的ではない。
チャーリーは、父親と二人で暮らしている。
その父親ってのが、女たらしで、何の仕事してるかはっきり分からなかったんやけど、どうやら居住を転々としているらしい。
どちらかというとダメ親父なんやけど、チャーリーのことをとても愛している。
彼のバックボーンに関して映画の中で多くは語られないし、彼が登場する時間もそう長くはない。
けれど、彼は典型的な「ダメ親父」像にとどまらない魅力がある。
息子を愛し、息子からも愛されている。そこに疑いがないからこそ、青年は迷う。
青年に競馬の仕事を与えた馬主ダグ。
彼はぶっきらぼうで、人使いも荒く、金に関してもだらしない。
いかにも粗野で野放図な人物に見えるんやけど、時にチャーリーに優しく、時に彼の将来を心配し厳しく、など人間的な魅力を垣間見せる。
彼のバックボーンに関しても、これまたほとんど語られないんやけど、彼がいろいろな経験をしていること、チャーリーに対して多少なりとも思い入れがあることがなんとなく伝わってくる。
青年の物語、というと、彼の精神世界のみに集中してしまい、それ以外の人物が典型的で退屈なキャラクターになってしまうということがある。
しかし、この映画は、周りを固める人物の奥行きをさりげなく見せることで、複雑な人間関係と、青年の繊細な精神世界を掘り下げているように感じた。
大人たちは、大人たちなりに悩み、やがて現実と対面し、どこかで諦めているように見える。
「若いころは俺も馬が好きだった
しかし今は馬を見ると自分を殴りたくなる」
ダグはチャーリーにこう漏らす。
【孤独になった青年の心の置き場所】
孤独になったとき、人は心の置き場所を求める。
時に恋人に、友人に、親に、兄弟に…
しかし、それらすべて失ったものはどうすればいいのだろう?
何かに熱中すればいいかもしれない。
けれど、熱い心を向けた先にいる大人たちの姿は、青年にどのように映ったのだろう?
青年は心の置き場を求め、無謀な旅へ出る。
「荒野にて」。
荒れ狂う現実という名の荒野にて、彼はさまよう。
どれだけ苦しくても、孤独になろうとも、彼は泣かない。
【ささやかながら、鮮烈に刺さる物語】
大人の役割とは何か?
若者の特権とは何か?
彼の見た世界の景色は美しいものばかりではないけれど、彼には美しく、たくましく、それに抗うだけの力があり、この世界はそれだけの価値がある。
そんな崇高なテーマを深く心に突きつけてくる素晴らしい映画やった。
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆☆★
バランス:☆☆☆☆★
好き :☆☆☆☆★
計 16/20
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