1日1本映画レビュー 『ゴールデン・リバー』
『ゴールデン・リバー』
原題:『The Sisters Brothers』
公開:2018
監督:ジャック・オーディアール
出演:ジョン・C・ライリー
ジェイク・ジレンホール
兄と弟、生と死、泥と金
ロードムービーが描く人間の悲哀
以下感想。
【サスペンスっぽいけど・・・】
これ、TSUTAYAのアクション・コーナーに置いてあった。
やから、てっきり
「裏切りと殺し合いのサスペンス西部劇」
かなんかかな、と思ってた。
蓋を開けてみてビックリ。めちゃくちゃ重厚なヒューマンドラマやん!
『JOKER』にて、主演のジョーカー役を怪演した曲者俳優ホアキン・フェニックス、そのほか大物俳優を配置して
「夢に目がくらむ」…
なんていうキャッチコピーをつけて、アクション映画のコーナーに置いてしまえば、そりゃあ「騙し合いサスペンス」を期待して手に取ってしまう。
実際のところは、アクション要素はむしろ少なくて、西部劇というひな形を用いた、人間の悲哀を描くロード・ムービーっていう感じ。
アクションコーナーに陳列したり、サスペンス的な煽り文句をつけたり、ってのは、明らかに不必要なミスリードで、
え?思ってたのと違った・・・
なんていう肩透かしを食らうかも。
【兄弟の姿を追って描かれる人間ドラマ】
舞台は西部開拓時代のアメリカで、主役はイーライ・シスターズ(ジョン・C・ライリー)と、チャーリー・シスターズ(ホアキン・フェニックス)。
この二人は「シスターズ兄弟」としてけっこう名が通った殺し屋で、”提督”と呼ばれる人物のために仕事をしている。
二人はウォーム(リズ・アーメッド)っていう化学者を殺す依頼を受ける。
ていうのも、この化学者、「川に沈んだ金を発光させる」という魔法みたいな薬を作ることができて、提督はシスターズ兄弟に、その化学式を拷問してでも手に入れてこい、と命令する。
彼の場所を突き止め。行動を逐一シスターズ兄弟に連絡するためにモリス(ジェイク・ジレンホール)が派遣されるが、何とそのモリスがウォーム側に寝返っちゃう、という話。
あらすじだけ見るとサスペンス色が強そうやけど、実際は、その依頼を受けウォームを探すシスターズ兄弟の道中をメインとして描いているヒューマンドラマ。
まず、キャラクターの描かれ方が面白い。
ホアキン・フェニックス演じるチャーリーは、俳優のイメージにぴったりやし、西部劇のイメージにもすごくマッチしてた。
粗暴で、酒癖と女癖が悪くて、退廃的で、殺しをいとわない冷酷さを持っている。
けど、繊細で壊れやすそうな一面も覗かせている。
ジョン・C・ライリー演じるイーライは、チャーリーの兄貴。
色男じゃないし、あんまり頼りないし、愚鈍なイメージが強い。
けど、人間臭くて、優しさがあって、何より哀愁がある。
こんな二人やから、当然何度もいがみ合うけど、2人の絆であったり信頼関係っていうのがロードムービーの中でしっかり描かれてるから、2人のことをちゃんと好きになれた。
時代に抗わず、暴力の世界に逃げる弟と、現実に疲れ、平穏を求める兄。
彼らのドラマがどのように帰着するのか?っていうのは、凄く興味深かった。
シスターズ兄弟に追われるモリスとウォームも、シスターズ兄弟に共通する部分があって面白い。
家族の繋がりを嫌い暴力の時代に馴染もうとするモリスと、人間愛があり理想主義者なウォーム。
はじめは身分を騙ってウォームに近づいたモリスも、ウォームの人柄と思想に惹かれ、協力関係、ひいては友情関係を築く。
映画のテンポが良いのはプラスなんやけど、もうちょっと彼らを深掘りしてほしい気持ちもあった。
シスターズ兄弟が軸の物語とはいえ、結構彼らも興味深いキャラクターなので、もう少し彼らの事を知りたかった!
やがてシスターズ兄弟と、モリスたちがかち合い、そこから人間模様が変化していく。
そして、人間の隠しきれない欲望を露わにする「金」が登場し、人間の悲哀であったり、抗えない本質であったり、生命の刹那を浮き彫りにしていくのが面白い。
でも、スリリング、サスペンスな展開というよりは、あくまで深く人間像を掘り下げる、といった感じ。
西部劇としてのエンタメ、サスペンスとしてのエンタメ、っていう部分はかなりそぎ落とされているように感じた。
そうしてもなお、人間の在り方を問うような濃厚なドラマを見せてくれるから、ちゃんと映画が面白い。
物語は終盤に進むにつれ残酷な展開を見せる。そこから加速するように面白くなっていき、終盤にはキャラの魅力が爆発するようなカタルシスさえあった。
スロースターターでつかみどころのわかりにくい映画やったけど、鑑賞後には、爽やかで心地いい後味と余韻を味わうことが出来る。
エンタメ ☆☆☆★★
テーマ ☆☆☆☆★
バランス ☆☆☆☆★
好き ☆☆☆☆★
計 15/20
エンタメとしては少し肩透かしを食らう部分もあったけど、ドラマの面白さがそれを上回るものやった。
正直そこまで観やすい映画ではないけど、哀愁のある人間ドラマが好きな人には強くオススメできる一本。
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