1日1本映画レビュー『ルイの9番目の人生』

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ルイの9番目の人生

 

原題:『The 9th Life of Louis Drax』

公開:2015

監督アレクサンドル・アジャ

出演:エイダン・ロングワース 

   ジェイミー・ドーナン

   サラ・ガドン

   アーロン・ポール

 

  

小さな違和感が胸をえぐるファンタジック・サスペンス

 

 

以下感想。

 

 

【コミカルな切り口と、ちりばめられた不穏感】

 

個人的には、子供の視点を軸にした映画ってあんまり好きじゃない。

 

ていうのも、「無邪気な子供だからこそ気づける…」的な切り口で、綺麗事を並べるきらいがあるから。

後シンプルに小さい子供が苦手。

 

もちろんそういった類の映画で素晴らしい作品はあるけど… あまり食指が動かない。

 

けど、「サスペンス」というのなら別。

子供ってサスペンスを盛り上げるファクターになりやすいし、映画のアートワークも面白そうやん!

 

 

 

映画の切り口は結構コミカルで、「エモーショナルな親子ドラマ」っぽい。

 

主人公のルイ(エイダン・ロングワース )は、生まれてこの方、8回も死にかけている不運な少年。

そんなルイがお母さん(サラ・ガドン)とお父さん(アーロン・ポール)とピクニックに行った際、崖から転落してしまい、死亡診断を受けるも突如息を吹き返し、昏睡状態となる。

脳科学を研究しているパスカルジェイミー・ドーナン)は、死の淵から蘇生したルイに興味を持ち、彼の主治医となる。

 

 

観客に映画の全貌を掴ませないような場面の展開が見事で、映画が少しずつ、ジワジワとサスペンス色を見せていく。

観客に焦点を絞らせないから、映画がどう転んでどう着地するか予測が出来ない。

 

過去と現在を行き来しながら、少しずつルイの精神世界が明かされていく。

その中で、映画が「違和感」を紡ぎだしていって、次第にそれが大きくなっていく感覚がサスペンスとして魅力的。

観進めるにつれ心のザワザワ感が大きくなっていって、少しずつ映画の全貌が見えてくる感覚が楽しかった。

 

 

【奇妙なキャラクターたち】

 

主人公のルイは生意気なガキで、9歳のクセに妙に達観してて憎たらしい。

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しかし、物語が進むにつれて彼に見えている世界と、彼が背負う運命が明かされていき、最後にはなかなかどうして愛おしいキャラクターになっていた。

 

 

彼の精神世界と観客の橋渡しとなるキーパーソンが、ペレーズ医師。太っちょの人。

彼とルイのカウンセリングを通じてルイの精神世界が明かされる構造になってるから、彼らの会話には目が離せない。

なんか変な麺を汚く食うシーンが印象的。

 

 

ルイの記憶に棲む、ママとパパ。

映画のキーパーソンで、奇妙な事件の軸になる二人。

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ルイが大人たちをどう見ていたか?に着眼すると面白い。

大人が思っているより子供はよく見てるし、真実をとらえている。

 

 

ルイの「無邪気どうこうでは片付けられない」憎たらしさも、映画を観終わった後に振り返ってみると、それが彼なりの在り方なんやなと思えた。ドラマにおけるテーマの収束と伏線の置き方も自然。

 

 

そして現在パートの主人公、パスカル

映画の立ち位置としては、かなり滑稽なんよね。

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サスペンスにおける「事件を面白くするための駒」みたいな役割の人。

 

残念なポイントとしては、彼の気持ちに感情移入できないし、彼を応援したくなるポイントも全然ないこと。

ルイをめぐる奇妙な出来事に巻き込まれるファクターとしての役回りが大きい癖に、映画の主人公的な立ち位置にいるから、いまいち映画に乗り切れない気がした。

 

彼は映画の登場人物たちをどのように捉えていたか?

彼は映画の登場人物たちにどう捉えられていたか?

 

 

 

【映画が明かす真実】

 

映画の中で、いろんな伏線やミスリードが置かれ、時にはホラーテイストな演出なんかもあったりして、サスペンスフルに展開していく。

 

良かった点は、映画の中で明かされる真実が映画のテーマやバックボーンに根付いたものだと思えたところ。

映画全体のテーマを雑に崩したりせず、サスペンスとして成立させたうえで、しっかりドラマを完成させているのが見事。

その中で観客に対して投げかけをしたり、完全にはスッキリさせない良い意味での「もやもや」を残したり、最後まで隙がなかった。

 

あえて悪いところを挙げると、少し終盤の展開が雑に感じたのと、ミスリードの置き方と伏線の回収の仕方があまりクールじゃない気がした。

事件の本質を男と女の精神的な性質の違いで示す、みたいなのは面白かった。やから、終盤のネタ明かしのシークエンスももう少し丁寧でも良かったと思う。

伏線の置き方は個人的に好きだっただけに、少し残念。

 

怪しい人物みたいなのも分かりやすいから、ミステリー性は求めすぎないほうがいいかも。あくまで歪な精神世界と、サスペンスが紡ぐドラマを楽しむ映画かな。

 

エンタメ:☆☆☆☆★

テーマ :☆☆☆★★

バランス:☆☆☆☆★

好き  :☆☆★★★

計 13/20

 

映画が明かす真実は俺にとっては驚きがあるものやったし、興味深いものやった。それらを総合したうえで思い返しても、よく出来たドラマやと思う。

内容が内容なだけに好きになれる映画ではないんやけど、確かに心に残る作品の一つ。

 

 

 

 

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