1日1本映画レビュー 『ちいさな独裁者』
『ちいさな独裁者』
原題:『The Captain(英題)』
公開:2017
監督:クロベルト・シュベンケ
出演:マックス・フーバッヒャー
ミラン・ペシェル
フレデリック・ラウ
空っぽの権威
以下感想。
【過去の歴史に囚われ続けるドイツ映画】
ドイツ映画といえば、ナチス。
軍国主義が過熱し、ユダヤ人を大量に虐殺した、負の歴史を扱った作品がとても多い。そこから発展し、人がどこまでも残酷になれるさまや、ヒトラーの不偏性を描き、時代が変わった現在に警鐘を鳴らすような作品が多く見受けられる。
本作はそんなドイツ映画特有の空気感たっぷりに、戦時中に実際に起こった事件をベースに描かれている。
【舞台は敗戦直前のドイツ、主役はその脱走兵】
1945年が舞台やったと思うんやけど、敗戦色が濃厚で暴走していたドイツでは、脱走兵が後を絶たなかった。
主人公のヘロルトもそんな脱走兵の一人。ドイツは秩序を重んじる国家やし、脱走兵が敵勢力に寝返るかもしれない、ってんで、ドイツ軍に殺されそうになるところから映画はスタートする。
命からがら逃げていると、たまたまドイツ軍の大尉の軍服を見つける。
それを身に纏って「ヘロルト大尉」としてなりすまし、
「総統から命を受けた」
とうそぶき、多くの兵士を服従させていく。
またこの軍服がかっこいいんよな。
ナチスの軍服ってなんでこうもかっこいいんやろうか。権威を示すための視覚効果の狙いもあるんやろうけど、軍服を見つけるシーンとか胸が躍ったね。
「後方の実情を報告するために~」
なんて曖昧なことを言っているうちに、脱走兵の収容所にたどり着く。
どんどんどんどん話が大きくなっていって、その都度身分がばれないように嘘を重ねていくんやけど、そのうちにヘロルトの行動がエスカレート。
「じつはここの収容所もいっぱいいっぱいで」
「前線で戦う兵士よりも脱走兵の連中のほうがいい暮らしをしている!」
「ヘロルト大尉の方から総統になんとか言ってもらえませんか?」
「・・・ じゃあ俺が奴らを裁いてやろう!」
なんて流れで、脱走兵とはいえ、同胞であるはずのドイツ人を大量虐殺することに…
【わかりやすい脚本と、シャープな切り口の風刺】
驚くべきは、立派な軍服と方便、ただそれのみで多くの命を奪うだけの権威を手にしたこと。
分かりやすい脚本、淡々とした空気感ではあるんやけど、ところどころ、かなりシャープな切り口で「空っぽの権威」を皮肉している。
また、あまりセリフを使わず、登場人物たちの立ち振る舞いや表情、シーンによって物事を語ったり、テーマを浮き彫りにする構造が面白い。
もちろん空っぽの権威を振りかざすヘロルトも、それを妄信するものたちも愚かやねんけど、ところどころ「こいつ偽物ちゃうか?」と気づいてるやつがいてゾッとした。
いくら残酷でも、生き抜くために人を虐げる、それが同胞でも。
エゴイズムに溺れてしまう人間の醜さ、それを正当化する戦争の狂気、それらを重苦しくなりすぎず、わかりやすい脚本でテンポよく描いているのが見事やった。
映画としてはわりと「胸糞悪い」みたいな分類にされてるけど、個人的にはそんなに胸糞悪いというよりは、社会風刺の観点を中心に観てほしいかなと思う。
もっともクールやなと思ったのは、エンドロールにまでしっかりと映画のテーマを表すような映像を作っていたところ。
何が正しいのかを見極める。時代が変われど大切なものは変わらないという、戦争から普遍的なテーマへと落とし込む手法が見事で、最後まで魅了された映画やった。
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆★
好き :☆☆☆★★
計 16/20
戦争映画って結構アレルギー反応する人も多いと思うけど、その分テーマやメッセージが伝わりやすいからオススメ。
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