1日1本映画レビュー 『ロスト・ハイウェイ』

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ロスト・ハイウェイ

 

原題:『LOST HIGHWAY』

公開:1997

監督:デヴィッド・リンチ

出演:パトリシア・アークエット

   ビル・プルマン

     バルサザール・ゲティ

     

 

 

記憶とはかくも曖昧なもの

にも関わらず、人は瞬間をその曖昧なものを頼りに生きている

 

 

以下感想。

 

 

【奇才デヴィッド・リンチ

 

監督のデヴィッド・リンチは90年代のアメリカ映画を代表する監督の一人なんやけど、「奇才」という言葉がふさわしい。

 

もし、映画にあまり興味がない人が彼の作品を観ると、 映画ってすげえ!ってなるか、もしくは映画って難しくて意味わからん…となるかのどちらか。

 

没頭できるか、一ミリも理解できなくて興味を失うか、の二択を迫るような監督。

 

けど、不思議な世界観を味わったり、隠されたテーマに目を向けたり、不可解の連続を紐解いていくような作業が楽しく、魅了されているファンも多い。

難解な文学や芸術作品なんかが好きな人には強くおススメできる。

 

 

この映画、デヴィッド・リンチ「らしさ」が出てて、そのらしさってのが

 

 

エロくて、グロくて、難しい

 

の三拍子。

 

日本にもいわゆるエログロナンセンスみたいな、映像というよりは文学や漫画作品、なんかが多く存在するけど、ああいうのってどういう層に刺さるのかな。

個人的には、グロいのは嫌いやからどちらかというと苦手なジャンルなんやけど。

スプラッタやスラッシャー映画など、グロに魅了される人は案外多い。

 

 

まず、とにかく、リンチの作品はエロい。

この作品も主役のパトリシア・アークエットが得も言われずエロい。

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この作品を問わず、セックスであったり、女性の裸体であったりが男を惑わせ、狂わせるってのはよくあるパターンよね。

リンチ作品を網羅したわけではないけど、セクシーな女性が出てくる作品は多い。

 

 

 

また、グロい。

といっても過激なスプラッタとかではないんやけど。

目を逸らしたくなるレベルではないけど、死体や血の描写は多い。

この作品でも、ゾッとするようなシーンもちょこちょこあった。残酷なんやけど、その使い方が非常に巧みで、嫌悪感以上に好奇心がくすぐられる。

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そして、難しい。

想像してるその三倍難しい。

「理解してやる」と意気込んでも、三分で分からなくなる。

後から解説なり考察なりを観ると余計なシーンは無いんやけど、初見ではかなりわかりにくい。不親切。

 

 

 

エロくてグロくて難しいものが好きな人はどうぞ。

 

 

 

 

【不可解を不可解のままにする大胆さ】

 

ミステリーなんかを観ると、どうしても、気持ちのいい答えを映画サイドが提示してくれることを求めてしまう。

不可解なことが多く発生して謎が深まって行ったり、何かのメタファが出てきたとき、その解答、種明かしがあることを期待してしまう。

 

しかし、この映画。

そういった観客の「?」をそのまま放置するという大胆さ。

 

大胆さといってしまえば聞こえはいいけど、人によってはただの不親切、監督のオナニーに感じるかも。

 

しかし、この映画は観客が映画が持つ答えや意味を知って楽しむ、というよりは、不可解な世界に浸り思考を凝らす楽しさ、を引き出すことに特化していると思った。

美術館にて訳の分からない絵画を観るように、よくわからないけどなんか良いなっていう絵を見つけるように、映像体験に新たな側面を持たせてくれる。

 

 映像作品は描写の連続、そこを彩るのは生身の人間であり人間の世界やから、「すべてに血が通っている」と錯覚してしまうんやけど、リンチはそこにとどまらず、映像作品の表現の幅をもっと広げているといってもいい。

不可思議、不条理、それが当たり前のように転がっていても良いし、常識が絶えず変化したって良い。その自由さが不可解さを生んでいるんやろうけど、奥深さを生んでいるから、多くの人が魅了される。

 

 

あらすじとしては、ジャズミュージシャンのフレッドの家に、『ジャック・ロラントは死んだ』というメッセージが届く。ジャック・ロラントって誰?なんて思っているうちに、家に奇妙な映像が届いたり、謎の男に出会ったり、挙句の果てに妻を惨殺してしまったり、その記憶が無かったり…と、不可解な展開が続く。

その中で、時間の流れ、のみならず、映画の主軸の視点、キャラクターの肩書きまで、何から何までがごちゃごちゃに交差していく。

 

 

 一切に関して説明がないし、どれだけ頑張って頭を働かせても、それをあざ笑うくらい難しい映画なんやけど、不気味な世界、見てはいけない世界、戻ることのできない世界に足を踏み入れてしまうような、そんな感覚を味わうことができる。

 

この作品には着想を得た実際の事件があって、それがOJシンプソン事件。

妻とその友人を殺したにもかかわらず無罪を主張したOJシンプソンの事件なんやけど、そこから「人間の記憶」の曖昧さと不可解さをあぶりだすような作品を作ったと考えると、なかなか楽しい。

 

人によっては嫌気がさしてしまうかもしれないけれど、刹那の映像芸術と、考察から浮かび上がる不気味な真実に浸る、そんな楽しみ方をぜひ味わってほしい。

 

 

 

エンタメ:☆☆☆★★

テーマ :☆☆☆☆★

バランス:☆☆☆★★

好き  :☆☆☆★★

計  13/20

 

 

 

 

〈オススメの難解映画〉

マルホランド・ドライブ

 リンチ作品にしてはむしろわかりやすい

ファントム・スレッド

 この監督も難解やけど、これは楽しめるポイントがわかりやすい