1日1本映画レビュー 『アップグレード』
『アップグレード』
原題:『Upgrade』
公開:2018
監督:リー・ワネル
出演:ローガン・マーシャル・グリーン 他
古典的かつ斬新なSF
以下感想。
【これって『ヴェノム』に求めてたものなんじゃないの?】
マーベル映画の『ヴェノム』が2018年に公開された。
ヴェノムって言ったら、スパイダーマンの悪い奴みたいな見た目のやつ。
詳しくは知らんけど、実際スパイダーマンの敵役なんよね。
そんな敵役(ヴィラン)にスポットを当てた映画。
マーベル映画といったら『アベンジャーズ』みたいな王道ヒーロー映画が多い中、肌色の違うダークな映画が観れそうなので、かなり期待してた。
蓋を開けてみたら、『最も残虐な悪が誕生する』なんてのは嘘っぱちで、少年向けの凸凹バディアクションでした。
予告編ではお客さんが「ヴェノム萌え💛」みたいなことを抜かす始末。
いやダークな世界観は?
登場人物たちの心理描写・葛藤、適度な残虐表現や、敵の設定、全部が甘くて、個人的にはかなり残念な一本。
ヒーローアクション映画として観ればこれでいいんやろうけど、『悪役』にスポットを当てている以上、もっとダークなものを期待していた。
この『アップグレード』、『ヴェノム』に設定が似てるのね。
【古典的かつ斬新な設定と世界観】
舞台は近未来。
あまり世界観の多くは語られず、ちょっとしたデバイスやマシーンなんかで説明するのがクール。
無駄なことを語らないSFってええよね。
デザインも洗練されてるから、低予算を感じさせない。
音響とカットがすごくきれいで、かなり上質なSF映画の質感を実現してた。
主人公のグレイは、奥さんと自動運転の車に乗っていたところ、制御がきかなくなって事故を起こす。
そこに4人の男がやってきて、奥さんは殺され、自分は四肢麻痺を起こす重傷を負わされる。
身体を動かせなくなったグレイは自殺を試みるが、友人の科学者のエロンが高性能AIチップのSTEM(ステム)を埋め込み、体を動かせるようになる。
STEMはやがてグレイの脳に直接語り掛け、「妻を殺した犯人に復讐する手伝いができる」と、人智を越えた力をグレイに授ける。
人間の中にプログラムを埋め込むっていうのも、AIが人格を持つっていうのも、もはや古典的なSFの設定やと思うけど、あくまでパイオニア作品のいい部分を集めて「オリジナル」としてまとめ上げている。
STEMが脳内で語りかけ、体の持ち主であるグレイと協力し、妻を殺した男を探す。
己の中のもう一つの人格とタッグを組むってのは、『ヴェノム』っぽい展開。
視覚や聴覚を共有しながら、時に身体を動かす権限をSTEMに委ねたりなんかして、犯人を捜すさまはバディものの心地よさがあった。
例えばグレイが犯人を見つけたとき殴りかかるんやけど、相手が強くて押さえつけられてしまう。
そのときSTEMが
「身体を動かす権限を委ねてくれれば代わりに倒しますが、どうします?」
なんて語り掛けてきて、超人的な格闘センスで相手をボコボコにする、みたいな。
人間らしさと、機械っぽい無機質さをうまいことかけ合わせていて、それを活かしたユーモアのセンスも最高に良い塩梅。
ハードSFっぽく適度にゴア描写もあって、なかなか見ごたえがあった。
【うならせる展開】
100分弱とかなりスリムな映画ながら、しっかりアクションを含めたエンタメとして面白く、満足度が高い。
それ以上に、なかなか唸らせるような展開が本当に見事。
無為に続編とかに続けようとせず、しっかり完結させているのが最高!
映画の着地点として、ただのバディムービーやSFアクションものにとどまらせず、クールで奥深いSF映画として、観客を小気味よく裏切ってまとめ上げている。
映画が終盤に差し掛かるにつれ、急にゾクゾク、不穏感が高まっていく感覚がすごかった。
ラストまでは古典的かつ斬新なアクション、終盤にかけては生命や倫理を問うような作品に。
楽しくて、ゾクゾクして、小難しい。これぞSF!
設定を活かしたユーモア、人間と異物の共存、適度なゴア描写、ダークな世界観、ゾクゾクする展開。
これって、『ヴェノム』に求められていたものなんじゃないの?
もはや、上位互換やん。
主役の俳優もソックリやし、『ヴェノム』観るより絶対こっち観てください。
エンタメ:☆☆☆☆★
テーマ :☆☆☆☆★
バランス:☆☆☆☆★
好き :☆☆☆★★
計 15/20
どっちかといえばB級に属する映画やけど、まったくそんな匂いナシ。
女子に勧められる映画ではないけど、SF映画の入門としてもよさそう。
〈これが影響受けてそうなSF映画〉
もはや影響を受けていないSF映画がない