1日1本映画レビュー 『チェンジリング』
『チェンジリング』
原題:『Changeling』
公開:2008
監督:クリント・イーストウッド
出演:アンジェリーナ・ジョリー
この映画にカタルシスは訪れない
以下感想。
【驚きの実話】
「この映画は実話である」
という文言があるがゆえに、何が真実で何が脚色なのかを見極めないといけない。
そうやって映画に注視すると、クリント・イーストウッドがこの映画で描き、問いかけてくる、人間の在り方やモノの見方に直面し、自身に投げかけながら観ることが出来る。
クリント・イーストウッドの映画といえば、重苦しくて荘厳で奥深い、肩が凝るような映画が多いんやけど、この映画もまさにそんな感じ。
とはいえ、一度観たら忘れられないほどのインパクトがありました。
主人公は、アンジェリーナ・ジョリー演じるシングルマザーのコリンズ。
電話局での勤務から帰ってきたら、一人息子のウォルターが姿を消し、家に帰ってこない。
誘拐だ…と思って警察を頼るんやけど、「ただの家出では?」なんて言って取り合ってくれない。
ウォルターが行方不明のまま五か月が経って、警察から「ウォルターが見つかったよ!」という知らせが。
喜んで迎えに行くと、警察が連れてきたのはウォルターではなく「全くの他人」の男の子だった…
奇妙な話ではあるんやけど、なんと実話。
物語としての脚色はあれど、描かれている事件は紛れもない真実である。
舞台は1928年、ロサンゼルス。
警察は汚職にまみれ、市民を守る責務を怠っている。
腐敗してるし、理不尽やし、観ていてすごく不愉快。
そもそも「息子さんを見つけました」と言って全くの他人を連れてきたのも、マスコミに誘拐事件の解決を大々的に報道させ、治安維持をアピールするためのでっち上げなんよね。
女性蔑視の価値観はもちろん、人間そのものの扱い方が狂っている。
そんな不愉快さを体現したようなキャラクターが、ジェフリー・ドノヴァン演じるジョーンズ警部。
冷酷で、めちゃくちゃイヤーな笑顔をしている。
このキャラと演技が絶妙で、このジョーンズ警部がおかしい、というよりは、あくまで仕事としてやってて、警察そのものがおかしいと感じさせる。
ホンマに憎たらしいイヤーな野郎なんやけど、彼の存在が際立つことで、同時に主人公のコリンズの強さと弱さも際立っているのが素晴らしい。
重いし、苦しいし、目をそむけたくなるようなシーンも多いんやけど、それでも立ち向かっていく主人公の様は、結構力強くて、見ごたえがある。
ひたむきな母親の愛を感じたし、女性の芯の強さも感じられるから、以外にも観るのはつらくなかった。
映画が進むにつれ、事件解決への希望が見え始めると同時に、恐ろしく残酷な真実が浮かび上がる。
観客が心のどこかで薄々感じていた部分を、あまりにも酷な形で提示する。
そこから、前半とは異なる形で「嫌さ」を感じさせてくるから、正直心が打ちのめされた。
コリンズが対峙する敵は、警察だけではない…
残酷で、過酷で、陰鬱な映画であることは違いない。
けど、紛れもない真実を描いた作品であり、同時に人間の力強さとか、自身の信じたもののために邁進する美しさとかが感じられる。
母の愛は尊いし、時代に立ち向かう女性の強さを感じられた。描いてるものとして気持ちのいいもんではないんやけど、嫌な気分になる映画では個人的には無かった。
映画の展開も終盤につれノッてくるような、スカッとする面白さもある。
でもその「スカッと」はちゃんと抑えれていて、荘厳な空気感をしっかり保ちながら映画が着地しているのが見事。
かなり疲弊したけど、なんだかんだ長尺は感じない映画で、観終わった後しばらく考え込んでしまうような重みがあった。
真実とは信じがたいような凄惨な事件を扱いながら、人間の深淵、時代とともに風化しえた真実をあぶり出すようなクリント・イーストウッドの姿勢が素晴らしい。
子供を失い、時代に嫌われ、人間に打ちのめされてもなお戦ったひたむきな母の愛。
しかし、それはやがて狂信的なモノ、みていられないようなモノへと転換していく。
ラストのコリンズのセリフが、切なく、重く響く。
この映画にカタルシスは訪れない。なぜなら、この映画は真実であるから。
残酷な真実に打ちのめされた人がいるのに、俯瞰している観客だけカタルシスを感じることはできない。
相変わらず映画の後味を完全に良くしてはくれないんやけど、 綺麗事を綺麗事で済まさない、そんな荘厳な姿勢がイーストウッド映画の魅力なんやと思う。
エンタメ:☆☆☆★★
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆★
好き :☆☆☆☆☆
計 17/20
精神衛生上、少し暗い気持ちになってしまう可能性アリ。
とはいえ、ちゃんと面白いし、印象的で、余韻が大きいから、観て後悔は絶対しない!
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