1日1本映画レビュー 『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』
『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』
原題:『Demolition』
公開:2015
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:ジェイク・ジレンホール
ジューダ・ルイス
めちゃくちゃ詩的で叙情的な『ファイト・クラブ』
以下感想。
【観る気が起きない邦題】
邦題が詩的でオシャレ。
ゆえに、観る気が起きない。
タイトルだけを見てると、かったるいラブストーリーか、無駄に感傷的なヒューマンドラマみたいで嫌。
なんかこういう「長ったらしくゴチャゴチャ言うタイトル」って流行ってんの?
誰が好きなん?誰の仕業なん?
原題はどうかというと、
『Demolition』(=解体)
と非常にシンプルでした。
肝心の映画の内容はというと、結構ロックンロール!な映画で、かなり好みなタイプの映画。
芸術的で、奥深くて、スマートで、刺激的。それでいて温かみがあって親近感も感じる。
何より、「自己の内面」、とくに「自分すら気づいていない自己の内面」を深掘りしている作品で、めちゃくちゃ好きな類の作品だった。
アイデンティティを探りながら、自己破壊を通じて自分と向き合う男の精神を見事に描いた作品。
【妻と死別した男の自己破壊と再生】
始まって3分くらいで妻が死ぬ。
ジェイク・ジレンホール演じる主人公のデイヴィスは、妻が運転していた車に乗っていたときに衝突事故に合う。
妻は死んだが、自分は無傷。
奥さんが死んだのに全然悲しくない、涙も出ない自分に違和感を感じたデイヴィスは、
「修理するときは、まず解体だ」
という言葉を思い出し、そこから彼の心理世界が変化していく。
セリフやシンボルを多用せず、映像の映し方と俳優の演技によって、説明せずに「感じさせる」っていうのが多くて、すごくスマート。
カットも多いし、結構テンポも良いし、芸術的で多少難解な部分もあるけど、しっかりその瞬間瞬間を心で感じさせてくれるから、置いてけぼりにされる感覚はなかった。
妻の死をきっかけに主人公が自己を解放していく。
その方法が『解体』。
今まで楽な生き方を選び続けてきた自分とちゃんと対面し、内なる破壊衝動の存在に気付く。そこで初めて、自分が人生に興味を持ってこなかったことを痛感する。
主人公が本能の赴くままに生きるシーンは、すごくエネルギッシュで爽やかやった。
なんか「どうにでもなれ!」って思うときってあると思うんやけど、そんなとき彼くらい自由に慣れたらどんだけ楽しいかなと思った。
自己のマッドな部分を解放していくにつれ、どんどん主人公の精神世界も変化していく。
もはや新たな自分に生まれ変わるくらいのスピード感で、どんどん主人公の興味の幅も広がっていく。
その中でいろんな出会いがあって、気付きがあって、そこからまた自分を組み立て直すっていう、スクラップアンドビルドの脚本の流れが非常に見事。
破壊っていうテーマがすごくロックで人を引き付けるんやけど、後半に進むにつれどんどん映画が血を通わせていって、人間の温かい部分が染み渡ってくる感覚が結構心地いい。
理由は分からないけど虚無
っていうのも、
現状を壊して、何もかも手放して奔放に生きたい
っていうのも共感できる。同時に
今、手にしているものを守り続けたい
っていう感情もある。
二律背反の人間の感情を良い塩梅で、芸術的に映像とドラマで表現して、その上で伏線とかも回収しながら、映画としてまとめているのが素晴らしい。
かなり特殊な世界観と精神世界を描いているようで、以外にも普遍的で人間的なテーマを描いているし、最終的な映画の着地点も爽やかやから、誰が見ても共感し入り込めると思う。
感情移入させてくれるから、鑑賞後の満足感がかなり高かった。
ヒューマンドラマとして、芸術的な映像作品として、普遍的な愛の物語として、どの面から見てもかなり楽しめる。
邦題の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』っていうワードの回収の仕方も、なんだかんだ好きです。
エンタメ:☆☆☆★★
テーマ :☆☆☆☆☆
バランス:☆☆☆☆★
好き :☆☆☆☆★
計 16/20
こういう映画が好きか嫌いかって結構分かれると思うし、楽しい映画を観たいな!って時に観る映画ではないかもしれない。
けど、ちょっと映画観て「深読み」するっていう楽しみ方もあると思う。
1日の100分間を使う価値は大いにある作品。
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