1日1本映画レビュー 『アノマリサ』

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『アノマリサ』

 

原題:『Anomalisa』

公開:2015

監督:チャーリー・カウフマン

   デューク・ジョンソン

出演:デヴィッド・シューリス

   ジェニファー・ジェイソン・リー  

   トム・ヌーナン

 

 

血の通った悪夢の疑似体験

 

以下感想。

 

 

 

 

【曲者監督がストップモーション監督とタッグ】

 

チャーリー・カウフマンといえば、奇怪で独創的な脚本が魅力。

 

彼の脚本の映画はマルコヴィッチの穴という作品を観た。めちゃくちゃ独特な世界観とメッセージが面白く、凄く印象に残ってる映画。

 

ちなみに『マルコヴィッチの穴』というのは、実在する俳優のジョン・マルコヴィッチになることができる穴を見つけるというもの。

何を言ってるか分からんやろうけど、それ以上に説明しようがない。

 

けど、脚本の奇怪さに胡坐をかかずに、しっかりと奥深いテーマを持ったエンタメ芸術として完成していたのが見事で、個人的には結構好きな部類に入る映画。

 

そんなカウフマンがストップモーションアニメの監督とタッグを組んで、新たな試みにチャレンジした作品。

 

ストップモーションアニメというのは、フィギュアとか人形をコマ撮りにして作るアニメの事。CGとかを使わない独特な質感があるのが魅力。

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奇怪な脚本×ストップモーションアニメ

っていうのがすごく興味を惹かれた。

しかも、ちゃんとストップモーションアニメだからこそできる、ストップモーションアニメじゃないとできないことを映像で表現していたのが素晴らしい。

 

 

【一人の男の悪夢】

 

映画が始まって1分でもう気味が悪い。

主人公のマイケルは、全ての人間の顔と声を同一化してしまう病気にかかっている。

 

女性も男性も、すべて同じ顔で、同じ声。

吹き替えで観たんやけど、より一層その気持ち悪さが伝わってきた。

 

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妻からかかってくる電話、元恋人との回想シーン、ホテルのボーイ、テレビから流れる声、全てが同じ声で、同じ顔。

めちゃくちゃ気持ち悪い。確かに、実写じゃなかなか表現できない。

 

 

そんな自身の精神に辟易しているマイケルが、ホテルに泊まっていると、外から女性の声が聞こえてくる。

それは、あの忌々しい「同じ声」ではなく、れっきとした女性の声だった。

そしてその女性の顔は、あの「同じ顔」ではなかった。

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その女性の名前はリサ。彼女は顔に傷があるのがコンプレックスで、男性に心を開けない。

 

マイケルからすれば、

「顔がちゃんと見える!声も聞こえる!これは運命だ!」

ってなるわけやから、

「君の顔、君の声は僕にとって特別だ 魔法のようなものだ」

なんて言ってリサを口説く。

 

リサは最初は疑うんやけど、あまりにマイケルが心の底から自身の存在を祝福してくれるから、マイケルに心を開いていく。

 

そりゃマイケルからすれば嬉しくてたまらんでしょうね。

 

 

 

 【マイケルの目を通じて描く人間関係のしがらみ】

 

マイケルの精神世界は悪夢そのもので、最悪。

でもこの映画、めちゃくちゃ特殊な状況を描いているようで、実は「人間関係のしんどさ」っていう誰にでも共感できるようなテーマを描いてるから面白い。

 

かなり意図的に、「人と人との関わりの嫌な部分」を見せてくる。

 

いちいちうるせえ~

とか

言われなくても分かってるわ!

とか、普通に生活する中で感じる細かなストレス、それ以上に、

家族なのに繋がりを感じれない

他人に興味が持てず、日常が平板に思えてしまう

といった、心ではつながっていない表面的な人間関係のストレス、といった部分を、目をそむけたくなるほど生理的嫌悪感タップリに描いているのが本当に見事。

 

 

しかし、映画はそう陰鬱とした部分ばかりではなくて、

人生を変え得る素敵な出会いの存在

損得を越えた無償の愛の存在

を信じたくなるような、希望的な側面も持っている。

そして人を愛するということ、その本質について、かなり残酷な形で描いているのが面白い。

 

 

リサを口説いたマイケルは、ホテルの自分の部屋に誘ってセックスをする。

そのシーンがえげつないくらい生々しい。

 

しかもめっちゃ長い。

 

 

そこは、見つめ合ってキスをして・・・

次の朝のカットへ。

的な、なあなあで済ませろよ!

 

とか思ったけど、妙にリアルな会話とかもしっかり描いているから凄い。文章にするのも恥ずかしいくらい…

 

どうやらそのシーンだけに6か月かけたらしい。こだわり怖っ。

6か月こんなんと対面したら頭壊れるわ。

 

監督の重要なこだわりであり、映画のポイントとなる部分なんやろうけど、さすがに気持ち悪すぎて早送りした。

 

 

 

リサとの一晩が明け、映画は最高級にショッキング、もはやホラーのレベルの展開、おぞましさを見せて、めちゃくちゃゾッとするオチへと収束する。

 

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キーとなる「人形」

 

かなり気持ち悪い映画ではあるんやけど、描かれているテーマは奥深く、それでいて共感できる。

サスペンス的な面白さがありながら、それ以上に心に残る奥深さがあった。

 

アニメーションでありながら、むしろ実写映画以上のリアリティがあって、映像作品として素晴らしい。

陰鬱ながら意外と余韻は爽やかで後味も悪くない。理屈ではどうにもできない人間のしがらみに共感しながら、一人の男の悪夢の疑似体験をぜひ味わってみてほしい。

 

 

エンタメ:☆☆☆☆★

テーマ :☆☆☆☆☆

バランス:☆☆☆☆★

好き  :☆☆★★★

 計 15/20

 

一回観るだけでなく、何回も見たり考察する楽しさのある映画。

オススメはしにくいけど、映像体験としてはすごく上質。

 

 

 

〈オススメのストップモーションアニメ映画〉

 ・犬が島

  大好きな監督の大好きな作品 嫌いなはずがない

 

 ・ナイトメア・ビフォア・クリスマス

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